6月末で解散した学術書の老舗出版社「創文社」(東京都千代田区)の書籍の多くが、出版大手の講談社(同文京区)から「創文社POD叢書(そうしょ)(仮)」として、オンデマンド出版されることになった。創文社で出版してきたトマス・アクィナスの「神学大全」(全45巻)などが絶版を免れることになる。さらにオンデマンド出版に伴い作成したデータを利用し、電子書籍も同時に配信するという。創文社がホームページで明らかにした。
同社の発表によると、オンデマンド出版の対象は、権利者の同意を得られた同社出版の全書籍。ただし、東京大学出版会への引き継ぎが決まっている「ハイデッガー全集」など、他社で出版が決まっている書籍は除かれる。
注文のつど、本を一冊ずつ製作するプリント・オンデマンド(POD)形式で出版される。また判型、ページ数は原本と同じだが、ソフトカバーとなる。従来書籍に劣らない高精度レーザープリンターで印刷され、販売価格は原本の最終価格と同程度となる。ただし、原本の絶版時期が古く、現在の物価との乖離が大きい場合は、ページ数などを考慮して適正な価格を設定するという。当面は、通常の書店ルートでは販売せず、専用サイトで注文を受け付け、直接読者に発送する形態を採る。
オンデマンド出版のデータを利用した電子書籍も同時配信されるが、いわゆる「フィックス型」となり、本文検索などはできない。
1951年創業の創文社は、約70年近くにわたって人文科学・社会科学を中心とした良質な学術書を多数出版。戦後日本の文化を根底から支える役割を果たしてきた。解散により、これらの書籍が絶版となるのは「極めて甚大な文化的損失」だとし、両社で協議を重ねてきたという。
講談社は、「講談社学術文庫」を拡大印刷して出版する「大文字版オンデマンド」を2018年11月から提供するなど、オンデマンド出版の実績がある。最近は、技術革新によりオンデマンド出版を取り巻く環境も十分整備され、印刷の精度や入手のしやすさなど、実用に十分耐え得る水準のサービスが提供可能だという。
なお、「ハイデッガー全集」の創文社既刊書は今秋、東京大学出版会からオンデマンド出版され、第15巻『ゼミナーレ』と第16巻『演説と人生行路のその他の証言』は今冬に同会から出版される予定。