いまイラク派遣の多国籍軍への自衛隊参加が論じられていますが、事の是非はさておいて、TVニュースでサマワ派遣の自衛隊員の姿を見て、夏は50度近くまで気温が上昇する酷暑のイラクで大変だなあと感じると共に、「だれかが、1ミリオン行くように強いるなら、一緒に2ミリオン行きなさい」(マタイ5章41節)のイエスの言を思い出しました。
この「強いる」はローマ軍の兵士が身の回りのもの一切を持って非征服地を移動するとき、通りすがりの民間人の肩を自分の槍でたたいて徴用し、一ミリオンの距離を自分の荷物を担わせる権利(当人にとって権利でも、相手には苦役)を指す言葉です。この「強いる」、重い荷物を担いで、前を行く人間の肩をたたくことは先ずあり得ませんから、多くはすれ違うときに行われた筈です。すると求められた人間は重い荷物を担いで1ミリオン戻ることになりますから、求められ得た人間は法の定める2倍、2ミリオン歩くことになります。
イエスはそれを2ミリオン行きなさいと計4ミリオン歩くよう言われる。強いられる民間人にとって迷惑至極、不条理そのもの「強いる」という制度をイエスは積極的に行うように奨めているのです。
当時のローマ軍は、ローマの平和を武力で維持するために、ローマが征服地から半ば強制的に徴された兵士が多かったそうですから、イエスはパレスチナ駐屯ローマ軍の兵士の心中にある哀しさを見たのかもしれません。
平和のためと称する武力の最先端に立つ者、その平和のための武力の圧力を真っ向から受ける者、共に大義名分を声高に叫ぶ人間の犠牲者でないでしょうか。
◇樫木芳昭(かしき よしあき)=日本ルーテル教団議長