新型コロナウイルスの感染者が23人確認され、シンガポール最大の「クラスター」(感染集団)となったグレース・アッセンブリー・オブ・ゴッド教会の趙克文(ウィルソン・テオ)主任牧師が日曜日の1日、3週間ぶりに礼拝のメッセージを伝えた。自身もウイルスに感染し、10日間の入院を余儀なくされたが、神がこの試練の期間、教会に多くの御業を行われたとして、「われわれは再び立ち上がる」と力強く語った。
同教会では2月11日に最初の感染者が確認され、発熱があり同日夜から入院したテオ牧師も翌12日に感染が判明。テオ牧師を含む教会スタッフ8人、教会員9人の計17人が感染し、さらにこれらの感染者との接触などにより、計23人が同教会に関係する形で感染した。シンガポール国内の感染者は108人(3月2日正午時点)で、このうち約2割が関係する同国最大のクラスターとなった。
これを受け同教会は、国内に2つある会堂を2月14~25日の12日間にわたって閉鎖。通常は毎週土曜、日曜に礼拝を行っているが、閉鎖明けの最初の週末となった2月29日と3月1日は会堂での礼拝を中止し、日曜日の3月1日にテオ牧師がユーチューブで礼拝メッセージを伝える形を取った。
一時、10キロのランニングをするほどに回復
テオ牧師は冒頭、教会で多数の感染者が出たことにより、多くの関係者に迷惑をかけたとして謝罪。また、自身が入院するまでの状況や、入院中の対応など一連の経緯を説明した。
テオ牧師が最初に異変を感じたのは2月4日。この日は教会の会議があったが、昼夜、頭痛があり、夜は早く休んだ。翌5日朝になると熱が出たため、かかりつけの医師の元へ。2日間の休養を指示され6日まで休んだ。7日朝には熱もなくなったことから、10キロもランニングしたという。その後も体調は良好だったため、教会に行きスタッフらと夜まで会議をした。
8、9日は同教会の創立70周年記念礼拝があり、体調が回復していたことからテオ牧師自身がメッセージを伝えた。しかし9日夜に再び発熱があり、翌10日に再度かかりつけの医師の元へ。11日に教会スタッフの1人に感染が確認されたというニュースが入ったことで、同日夕に国立感染症センター(NCID)を訪れると、すぐに隔離室へ送られた。12日朝には検査の結果、陽性であったことを告げられ、その後20日まで隔離室で治療を受けた。
「見なさい、そして祈りなさい」
テオ牧師は入院中、この隔離室から教会に向けて手紙を3通書いている。まるで使徒パウロが、獄中から各地の教会に向けて手紙を書き送ったような思いだったという。入院中は感情が高ぶり、教会スタッフや教会員の状況を聞く度に泣いた。そして隔離室で独り祈る中で、神がはっきりと語り掛けてくれたのが、「見なさい、そして祈りなさい」という言葉だった。
最初は何の意味か理解できなかったというが、教会員たちが互いに助け合い、一致団結して祈る姿を目の当たりにし、神がこの危機を通して、教会の中で力強い御業を行われていることを悟ったという。「神はグレース・アッセンブリーで祈りのリバイバルを始められたのです」と、テオ牧師は力を込めた。
3つの「70」
テオ牧師はまた、入院中に創立70周年記念礼拝で自身が伝えた説教原稿を読み直す機会を持った。それは、「70」という数字の意味を3つの聖書箇所から解き明かすものだったが、その礼拝の直後から新型コロナウイルスという「危機」に見舞われることになった同教会に対する預言的な言葉として聞こえてきたという。
1つ目の「70」は、「主はこう言われる。バビロンに70年の時が満ちたなら、わたしはあなたたちを顧みる」と書かれているエレミヤ書29章10~11、14節。この箇所は、バビロン捕囚の終焉(しゅうえん)を告げる預言だが、神はここで預言者エレミヤを通して、神の計画は「平和の計画であって、災いの計画ではない」(11節)と語っている。テオ牧師は、捕囚の民に語られたこの希望のメッセージを、隔離措置などによりバラバラにされた同教会の状況に重ね合わせ、再び共に礼拝をささげることへの希望を語った。
2つ目の「70」は、イスラエルの民の中から70人の長老を選ぶ場面が描かれた民数記11章16~17節。モーセが、自分一人だけでは民の重荷を背負いきれないと神に求めたとき、神は70人の長老を選ぶよう命じる。テオ牧師は、これは1人によるリーダーシップからグループによるリーダーシップへの大きな転換だと指摘。同教会でも同様に、テオ牧師の入院中、教会の未来を担う若者たちの間に目覚ましい成長があったことを強調した。
3つ目の「70」は、エジプトに渡ったヤコブの家族70人について書かれた創世記46章26~27節。テオ牧師は、この70人はイスラエルという新しい国の始まりを意味すると説明。またそれは神の臨在と備えを伴ったものだったと言い、教会は恐れの中に生きるのではなく、不確実な時期にあっても、神の臨在と備えに信頼し、信仰を持つべきだと語った。
「3週間前に説教したこれらの『70』が持つ重要性が、グレース・アッセンブリーでこのように実現されるとは想像もしなかった」。テオ牧師はそう語り、最後には「確かにわれわれは、このウイルスによって痛みを受けた。しかしイエス・キリストにあって、われわれは打ち負かされてはいない。グレース・アッセンブリーは、力強く一致のもとに立ち上がる。祈りのコミュニティーとして」と力を込めた。
クラスターとなった2つの教会の感染経路判明
シンガポールでは、グレース・アッセンブリーズ・オブ・ゴッド教会のほかに、シンガポール・ライフ・チャーチ・アンド・ミッション教会も8人の感染者が出るクラスターとなった。当初はこの2つのクラスターの関連性や感染経路が分かっていなかったが、血清学検査を用いた追跡調査で実態が明らかになった。
シンガポールのストレート・タイムズ紙(英語)によると、1月19日に中国・武漢から入国した中国籍の夫婦が同日、シンガポール・ライフ・チャーチ・アンド・ミッション教会の日曜礼拝に出席。この2人が感染源となり同教会では他に6人の感染者が発生した。さらに、この6人の中の夫婦である2人が25日、春節(中国の旧正月)を祝う家族の集まりに出席。この集まりに、グレース・アッセブリーズ・オブ・ゴッド教会の男性スタッフが参加していたことで感染し、その後、同教会にも感染が広がる結果となった。
この血清学検査による調査方法は、米デューク大学とシンガポール国立大学(NUS)が共同で設立した医学大学院「デュークNUSメディカル・スクール」の研究者らが開発した。同紙によると、血清学検査を用いた新型コロナウイルスの追跡調査はこれが世界初とみられる。
グレース・アッセブリーズ・オブ・ゴッド教会のフェイスブックによると、テオ牧師は、シンガポール・ライフ・チャーチ・アンド・ミッション教会の朱志山(ビンセント・チョー)主任牧師と2月29日に面会。互いの経験を分かち合うとともに、祈りのひとときを持ったという。
シンガポールでは感染者が108人出たが、これまでのところ死者はなく、すでに78人が退院。現在入院しているのは30人で、このうち6人が重症(3月2日正午時点)。