キリスト教迫害監視団体「オープン・ドアーズ」が15日、世界の迫害状況をまとめた「ワールド・ウォッチ・リスト2020」(英語)を発表した。発表によると2019年は、教会やキリスト教関連施設に対する攻撃や、信仰を理由としたキリスト教徒の投獄が急増した年だったという。
ワールド・ウォッチ・リストは、オープン・ドアーズが1992年から公表しているもので、キリスト教徒に対する迫害がひどい50カ国をランク付けするもの。オープン・ドアーズが活動する60カ国から集められたデータを基に作成されている。
今回のリストには、北朝鮮や中国、イラン、ソマリア、エリトリアなど、毎年のように迫害国家として名指しされている国が名を連ねたほか、イスラム過激派の興隆により、キリスト教のコミュニティーが破壊され、大きな混乱が引き起こされている国々が新しく追加された。
米首都ワシントンで記者会見を開いたオープン・ドアーズは、米国の政権代表者や国会議員、国際宗教自由委員会、著名な人権活動家らが集まる中で今回の報告を発表した。
米国オープン・ドアーズのデイビッド・カリー会長兼最高責任者(CEO)は、「2020年のワールド・ウォッチ・リストは、キリスト教徒に対する迫害に関して、最も信頼性のある草の根活動で収集したデータを提供します。しかし、それより重要なこととして、警笛を鳴らすものになるでしょう」と述べた。
同リストによると、迫害のひどい上位50カ国では計約2億6千万人のキリスト教徒が「高いレベルの迫害」を経験しているという。これは、前年に比べて6パーセントの増加だ。
また、データが収集された期間である2018年11月1日から2019年10月31日までの間に、9488軒の「教会もしくはキリスト教関連施設」が攻撃されたという。平均すると1日当たり25軒になる。前年は1266軒だった。
裁判の手続きなしに逮捕、投獄されたキリスト教徒の数は、前年の2625人から3711人に増加した。
一方、信仰を理由に殺害されたキリスト教徒の数は減少した。前述の調査期間に信仰を理由に殺害されたキリスト教徒は、少なくとも2983人で、平均すると1日当たり8人だった。前年は平均で1日11人、年間で計4136人が殺害された。
カリー氏はクリスチャンポストの取材に応じ、ナイジェリアのイスラム過激派組織「ボコ・ハラム」による殺害件数が減ったことを理由の一つとして挙げた。ナイジェリアは同リストでは、世界で12番目に迫害のひどい国とされた。カリー氏によると、オープン・ドアーズが把握する限り、ナイジェリアは世界で最も暴力的なキリスト教迫害が起こっている代表的な国だという。
「ナイジェリアで今年見られた変化の理由としては、ボコ・ハラムが戦術を変えたことにあります。これまでは暗殺などの方法を採っていましたが、通行中のキリスト教徒を攻撃したり誘拐したりするようになり、路上での攻撃や誘拐の件数は急増しました。しかし、ボコ・ハラムはカメルーンやチャド、ブルキナファソに勢力を拡大しています」
サハラ砂漠以南のアフリカで暴力増加
今回の報告によると、2019年はイスラム過激派の活動がサハラ砂漠以南のアフリカ諸国、特に政府の支配力が弱まった地域において急増したという。そのため教会が閉鎖され、多数の住民が住居から逃れ出る事態となった。
今回、新たにリストに追加された国の一つがブルキナファソだ。西アフリカに位置する同国は、以前は比較的平和であると考えられていた。前年は51位とリストの圏外だったが、順位を33も上げ、今年は28位となった。同国北東部では、過激派による暴力が2016年から増加していたが、2019年に入ってからキリスト教徒に対する攻撃がエスカレートしたという。
ブルキナファソでは、2019年に推定で250人以上のキリスト教徒がイスラム過激派によって殺害された。教会への攻撃や礼拝中の襲撃も報告されており、これには少なくとも14人が殺害された昨年12月の礼拝中の教会への攻撃も含まれている。
国連は、ブルキナファソが「アフリカで最も急速に避難を要する危機が拡大している国の一つ」だとし、治安の悪化が急速に進み、大量の住民が避難を余儀なくされていると報告している。
カリー氏は、「政府にはソフトターゲットを保護する責任があります。教会が攻撃されようとしているのは分かっていることなのです。政府はこれらの教会を守り、クリスチャンが自由に礼拝できるようにしなければいけません。現在ブルキナファソの北東部では、クリスチャンが教会に行くことを恐れています。クリスチャンが、彼らが属するコミュニティーの中で守られるために、文民支配による政府が必要なのです」と語った。
同様の事例として、25位の中央アフリカと29位のマリが挙げられた。中央アフリカでは、キリスト教徒をターゲットにするイスラム反政府勢力への対応が行われている。ニジェールは今回、50位となり初めてリスト入りした。
内紛が進行中のカメルーンは48位で、イスラム過激派によるキリスト教徒のコミュニティーに対する攻撃が報告された。カメルーンではまた、ボコ・ハラムの勢力拡大も報告されている。反政府活動を支持する英語話者居住地域の現地人の報告によると、イスラム教徒が主体の遊牧民「フラニ族」の過激派が、殺害を含む攻撃をしているという。
アフリカの問題に幅広く取り組んでいる人権活動家のスコット・モーガン氏は、カメルーンがリスト入りしたことに関して、クリスチャンポストの取材に応え、次のように語った。
「この問題は、信教の自由の側面から扱うのが難しいのと同様に(カメルーンでの)ほとんどの事例は治安問題などの別の問題としても扱われるため、重大なのです」
「この危機は教育問題として始まりました。そのため、カメルーンの紛争を特に信教の自由の問題として捉えることは簡単ではありません。しかし、サヘル地域にある幾つかの国々を見ていると、ワシントンの人々はこの問題について神経質になっているようです。私たちは各国の大使館や関心のあるグループに連絡を取っており、行動を起こそうとしています」
ナイジェリアでは、キリスト教徒の農民のコミュニティーに対するフラニ族の暴力は2019年になってもやまなかった。ある人権活動家のグループの推計によると、ナイジェリアでは2019年に少なくとも千人のキリスト教徒が、フラニ族の過激派もしくはボコ・ハラムによって殺害され、2015年から累計すると6千人が殺害されたことになるという。
カリー氏は、「(フラニ族の問題を)単に領地問題として見るのは間違っていると思います。彼らは歴史的に過激化したイデオロギーを持っており、それらのコミュニティーからクリスチャンを追い出すというアジェンダを持っているのです。何らかの理由で彼らの先祖の土地だったという大義名分を掲げたとしても、その地に住んでいるクリスチャンたちに対する不法行為を正当化することはできません」と話した。
ナイジェリア政府は、暴力を食い止めることができなかったとして長年批判に直面している。
「ボコ・ハラムとフラニ族に対するナイジェリア政府の非効果的な対応は大きな悲劇です。そしてその悲劇が今は、カメルーンの一部とブルキナファソなどの他の地域にまで強く影響を与えています」とカリー氏は述べた。
キリスト教迫害国ワースト10
今年のワールド・ウォッチ・リストに挙がった上位10カ国は、前年と同じ顔ぶれだった。北朝鮮は、地下教会が継続して成長している一方、金正恩(キム・ジョンウン)政権が数千人ものキリスト教徒を強制労働所に収容し続け、19年連続でキリスト教徒への迫害が最悪の国となった。
2番目に迫害がひどい国とされたのはアフガニスタン。3位からは順に、ソマリア、リビア、パキスタン、エリトリア、スーダン、イエメン、イラン、インドで、これらの国がワースト10に入った。インドでは2014年に、ヒンズー至上主義を理念とするインド人民党が政権を取った後、キリスト教徒への迫害が急増した。
イランでは2019年に、194人のキリスト教徒が逮捕されたとされている。カリー氏によると、このうち114人がクリスマスの前日に逮捕された。カリー氏は、一連の逮捕はイランで成長している家の教会運動を「潰すため」のものだと指摘した。
「彼らは勇気のある人々です。その国に存在する権力に対して立ち向かっています。イランは確信的にキリスト教徒を迫害しているのです」
東南アジアでは、スリランカが前年の46位から30位に順位を上げた。同国では昨年のイースター(復活祭)に、イスラム過激派が3つの教会と3つのホテルをターゲットにした自爆テロを行い、250人以上が死亡、500人以上が負傷した。
カリー氏は、「これらの(犠牲となった)クリスチャンたちは、主日礼拝のための一番良い服を着て子どもたちを連れて(教会に)行ったのです。しかし彼らが家に帰ることはありませんでした。この一連の事件により、176人の子どもたちが両親もしくは片親を失いました」と語った。
さまざまな宗教団体に対する不適切な取り扱いや、大量のイスラム教徒を収容していることで強く批判されている中国は、前年の27位から順位を上げ23位となった。
中国政府は、登録されていない家の教会で礼拝をしたという理由で、数え切れないほどの牧師や信者を投獄した。カリー氏によると、中国では5596軒の教会が閉鎖されたという。閉鎖された理由のほとんどは、教会が監視カメラの設置を拒否したためだ。
カリー氏は、監視を通して国民を支配する中国は、人権に対する「最も大きな脅威」を象徴していると強調した。
「教会は聖なる場所でなければなりません。もし政府が皆さんを、皆さんの一挙手一投足を監視し、どれくらいの頻度で教会に通っているのか、もしくは通っていないのか、に基づいて評価しているとしたら、どう感じるでしょうか。今、そのような事態が中国では起きているのです」