米国の福音派指導者200人近くが22日、米福音派誌「クリスチャニティー・トゥデイ」のティモシー・ダルリンプル社長に宛てた共同書簡(記事下部に全文掲載)を発表し、同誌に掲載されたドナルド・トランプ米大統領の罷免(ひめん)を求める論説と、執筆者のマーク・ガリ編集長を非難した。ガリ氏は論説掲載後に応じたインタビューで、自身の論調に反発する福音派信者らを「極右」と呼び、一蹴する姿勢を示していた。
共同書簡の署名者には、世界最大のペンテコステ派教派「アッセンブリーズ・オブ・ゴッド」のジョージ・ウッド議長、米プロテスタント最大教派「南部バプテスト連盟」のジム・ヘンリー、ジャック・グラハム両元議長、米福音派団体「フォーカス・オン・ザ・ファミリー」創設者のジェームス・ドブソン氏、米リバティー大学のジェリー・ファルウェル・ジュニア学長、米メガチャーチ「ハーベスト・クリスチャン・フェローシップ」のグレッグ・ローリー主任牧師、米音楽レーベル「ベテル・ミュージック」創設者のブライアン・ジョンソン、ジーン夫妻らがいる。
署名した福音派指導者らは書簡で、ガリ氏の論説は「国民としての義務と倫理的義務とを真摯(しんし)に受け止めている数千万人のキリスト教信者の霊的誠実さと、キリスト教信仰の証しに対して、攻撃的に疑義を呈した」と述べている。
また署名者らは、ガリ氏が20日に放送された米CNNとのインタビュー(英語)で、署名者らの見解を「攻撃的に一蹴した」と非難した。ガリ氏はインタビューの中で、同誌は「極右のクリスチャンや極右の福音派には読まれていません。ですから彼らは、トランプ大統領同様、本誌に否定的な態度を取るでしょう」と述べ、ガリ氏の論説に反発する人々を「極右」と見なす発言をしていた。
書簡は「私たちは実際、執筆者(ガリ氏)が述べているような『極右』の福音派ではありません」と指摘。「むしろ、私たちは聖書を信じるクリスチャンであり、大統領が私たちの助言を求め、その政権が諸政策を実施してきたことに素直に感謝する愛国心の強い米国人です。現政権は胎児を保護し、信教の自由を促進し、刑事司法制度を改革し、有給の家族休暇を通じて力強い勤労者世帯に貢献し、良心の自由を保護し、親権を優先し、外交政策が国民の価値観と一致することを保証しています。イスラエルの支援を含め、世界を安全にしています」
署名者らは、昨年出版された『今でも福音派なのか?(原題:Still Evangelical?)』の中で、共著者の一人としてガリ氏が述べた内容についても非難した。ガリ氏は同書で、2016年の大統領選において約8割がトランプ氏に投票しその当選の一翼を担ったとされる「白人福音派」を罵るようにして、「多くは大学を卒業しておらず、有職の場合でも(どうやら大半はそうではないようだが)、ブルーカラーの仕事か初心者レベルの仕事」だと言明。また、自分自身はそれとは異なる「エリートの福音派」だとも語っていた。
ガリ氏は自身の論説でトランプ氏の罷免を求めてはいるが、20日に掲載された米ワシントン・ポスト紙とのインタビュー(英語)では、「最高裁判事の指名と中絶防止政策への支持を含め」トランプ氏の政策決定の一部は支持していることを強調した。
ガリ氏の論説が注目を集める一方、ガリ氏自身は来年1月で同誌の編集長を退任することになっている。また、同誌が多くの人の意見を変える可能性が低いことを痛感しているとも語っている。
「私は、多くの人の心が変わるという幻想は持ち合わせておりません。私が書いたからとか、クリスチャニティー・トゥデイの発行人の名の下で書かれたからといって、私が書いたものが多くの心を変えることはないでしょう」
同誌については、左派傾向にあると考える人が多くおり、トランプ氏は、同誌の論説を批判する一連のツイート(英語)で、同誌について「極左」または「進歩主義的」だとレッテルを張っている。
一方、ガリ氏は今回の論説掲載後も同誌への支持は衰えていないとし、「寄付と新規購読者が急増した」と語っている。
ガリ氏は19日の論説(英語)で、トランプ氏は憲法に違反しており、「極めて不道徳である」ため罷免されなければならないと主張した。
「大統領は政治的権力を使って外国の指導者に強要して大統領の政敵に嫌がらせを行わせ、信用を失墜させようとした。それはただの憲法違反ではありません。さらに重要なのは、それが極めて不道徳であることです」。ガリ氏はトランプ氏が下院で米政治史上3人目の弾劾訴追された大統領となった翌日に掲載した論説でこうつづった。
「トランプ氏の倫理記録が黒くなったが、それでもトランプ氏を支持し続ける多くの福音派信者に対して私たちはこう言うかもしれません。『あなたがたは自分たちが何者で、誰に仕えているかを忘れてはなりません。トランプ氏を正当化することは、あなたがたの主であり、救い主である方に対するあなたがたの証しに、いかなる影響を及ぼすかを考えなさい』」
「信仰と自由連合」のラルフ・リード会長は20日夜、米フォックス・ニュース(英語)で、番組ホストを務めるローラ・イングラハム氏のインタビューに応じ、ガリ氏の論説を一蹴した上で、同誌を「クリスチャニティー・イエスタデー」とやゆした。
「キリスト教界にここまで逸脱した出版物があるとは、皆さんは夢にも思わないでしょう」とリード氏は語り、信教の自由とイスラエルを支持するトランプ氏の政策を歓迎した。
家族研究評議会のトニー・パーキンス会長も、フォックス・ニュース(英語)でシャノン・ブリーム氏のインタビューに応え、同誌の論説に反論した。オバマ政権が、結婚防衛法(結婚は1人の男性と1人の女性によるとする法律)への支持を拒否したり、オバマケアの下でクリスチャンが経営する企業に避妊や中絶薬の支払いを強要したりしたとしても、同誌は非難する論説を書いただろうかと疑問を呈した。
これに先立ち、クリスチャニティー・トゥデイ誌の創設に携わったことで知られる世界的な伝道者、故ビリー・グラハム氏の息子で、同じく伝道者として活躍しているフランクリン・グラハム氏は20日、自身のフェイスブック(英語)に、同誌の論説を非難する投稿をした。
「クリスチャニティー・トゥデイ誌は、トランプ大統領が罷免されるべきだとする論説を掲載しました。さらに彼らは、私の父の名前を引き合いに出していました(私は、彼らの声明の正当性を示してあげようとしています)。だから、その論説に応答するのが重要だと感じました。
そうです。私の父、ビリー・グラハムはクリスチャニティー・トゥデイ誌を創設しました。しかし、違います。父は、彼らの論説に同意しないでしょう。実際、父は非常に失望するでしょう。父が過去の選挙で誰に投票したのかは、これまで明かすことはありませんでした。しかしこの論説のために、今明かす必要があると感じています。私の父はドナルド・トランプを知っており、ドナルド・トランプを信頼していました。そしてドナルド・トランプに投票しました。彼はドナルド・トランプが、わが国の歴史における時の人だと信じていました」
以下、福音派の指導者ら約200人が署名した、クリスチャニティー・トゥデイ誌のティモシー・ダルリンプル社長宛ての共同書簡(英語原文はこちら)。
ダルリンプル様
私たちは共に、2019年12月19日にクリスチャニティー・トゥデイ誌に掲載された論説に対し不満を表明します。その論説は、6千万人以上の有権者が投票したことで正当に選出され、就任した大統領の罷免を呼び掛けるものでした。
さらに貴誌の編集長であるマーク・ガリ氏がCNNで、「クリスチャニティー・トゥデイ誌は極右のクリスチャンや極右の福音派には読まれていません。ですから彼らは、トランプ大統領がそうしたように、本誌に否定的な姿勢を取るでしょう」と発言し、私たちの見解を攻撃的に一蹴したことで、非常に驚かされました。またガリ氏は他の文章で、2016年に(行われた大統領選で)クリントン国務長官(当時)ではなくドナルド・トランプ氏を選んだ米国人について、「多くは大学を卒業しておらず、有職の場合でも(どうやら大半はそうではないようだが)、ブルーカラーの仕事か初心者レベルの仕事」だと述べ、自分自身は「エリートの福音派」だと誇っていたことも、私たちの関心を集めました。
もちろん、貴誌が以下の署名者に代表されるような福音派の声になろうとするのか、しないのか、決めるのはあなたの出版方針次第です。そしてまた、あなたの出版物をインターネット上、または印刷物で、読んだり、広告を出したり、購読したりするのは、私たち、あるいは私たちのような福音派次第です。しかし、歴史的に私たちは、あなたの読者でした。
私たちは実際、著者(ガリ氏)が述べているような「極右」の福音派ではありません。
むしろ、私たちは聖書を信じるクリスチャンであり、大統領が私たちの助言を求め、その政権が諸政策を実施してきたことに素直に感謝する愛国心の強い米国人です。現政権は胎児を保護し、信教の自由を促進し、刑事司法制度を改革し、有給の家族休暇を通じて力強い勤労者世帯に貢献し、良心の自由を保護し、親権を優先し、外交政策が国民の価値観と一致することを保証しています。イスラエルの支援を含め、世界を安全にしています。私たちは神政主義者ではありません。私たちの不完全な政治システムは、私たちが住む堕落した世界を象徴するものだと認識しています。私たちはこの世界で、罪人と聖徒の双方に等しく価なしに与えられる主イエス・キリストの恵みに依存しています。
私たちは、徴税人や罪人に恵みを与えすぎていると上から目線で非難されてきた、イエスをはじめとする歴史上の人物たちの中に数えられていることを誇らしく思っています。また私たちは、カエサル(行政機関)のものはカエサルに返すべきとする個人的責任を重く受け止めています。
反対意見への配慮をまったくせず、あなたが(発行人として)掲載した論説は、完全に党派心に偏った、法的に疑わしい、政治的に動機付けられた弾劾訴追を後押しするだけでなく、さらにその先にまで行き、トランプ氏が弾劾訴追を免れた場合も、2020年の大統領選で再び当選させないように呼び掛けています。
私たちの署名者の一人がある報道機関に言いました。「私はクリスチャニティー・トゥデイ誌が、今度は2020年の大統領選で民主党陣営の誰を大統領として支持するかを示してくれることを期待しています」
貴誌の論説は、国民としての義務と倫理的義務とを真摯に受け止めている数千万人のキリスト教信者の霊的誠実さと、キリスト教信仰の証しに対して、攻撃的に疑義を呈したのです。
貴誌の論説は、私たちの大統領のみを標的にしたものではありません。それは、彼を支持し、かつて貴誌を支持していた、私たちのような人々をも標的にしたのです。