米ニューヨーク・クイーンズにある「グレーター・アレンAMEニューヨーク大聖堂」で16日、ゴスペル界のトップアーティストにして牧師のドニー・マクラーキンが、60歳記念のバースデーコンサートを行いました。司会は、同じくゴスペル界のトップアーティストであるカーク・フランクリン。ゲスト出演したアーティストたちも、ゴスペル界を代表する一流の人たちばかりで、全米各地からドニーの誕生日を祝おうと集まりました。
大物が一堂に集まるということで、1枚50ドル(約5千円)のチケットはコンサートの数日前には完売。それでも会場となった大聖堂には、当日券を求める人が次々と訪れ、開場1時間前には長い行列ができていました。「海外から来たのに・・・」と、チケット完売で当日券がないことを知り、肩を落とす来場者の姿もありました。
ドニー・マクラーキンが、セキュリティーガードに囲まれながら会場入りすると、満席の観客席から拍手と歓声が起こりました。この大聖堂は2500人は収容できるはずですが、開場後も来場者が席に着くのに時間がかかり、まだ入場できずに外に並んでいる人もいました。ドニーは会場入りするとマイクを持ち、「こんなにたくさんの人に集まってもらえて感謝しかありません。まだ席に座れずに外で待っている人が100人ほどいます。どうか、少しずつ皆さん詰めてください」と観客に呼び掛けていました。
コンサートは祈りで始まり、子どもやユースによるダンスのオープニングパフォーマンスの後、ゲストのターシャ・コブス・レナードが登場。2013年に「Break Every Chain」「For Your Glory」がビルボードでトップを飾り、一躍スターとなったターシャ。現在、全米でヒット中の「You Know My Name」を歌うと、会場全体が一緒に賛美。まるで教会の日曜礼拝のように会場が温かい空気に包まれました。ターシャとは、7、8年前にコンサート会場のバックステージで一度お会いしたことがあります。その時に一緒に撮ってもらった写真がありますが、その頃とはすっかり見違えてしまいました。スターの貫禄が備わり、ますます素晴らしいアーティストになっていました!
司会のカーク・フランクリンは、「ドニーは僕の頼れる兄貴。60歳の誕生日に司会を務めることができて本当にうれしい」と言い、「僕の兄貴のために誰か歌に自信がある人、特別なハッピーバースデーを歌ってやってくれ!」と、会場に呼び掛けました。するとすぐに会場から若い女性の手が上がりました。さすがはエンターテインメントの街ニューヨーク。歌い出した若い女性の歌のあまりのうまさに会場がどっと沸いたものの、それに臆することなく、「私も」と次々と手を挙げて前に出てきました。突如始まった「ハッピーバースデーのど自慢コンテスト」。いずれも甲乙付け難く、ステージに上った5人には、ドニーが新しくリリースしたCDがプレゼントされました。
次に登場したのはジョナサン・マクレイノルズ。若手の人気ゴスペルアーティストであるジョナサン。ギターでアコースティックなサウンドを披露し、こんなメッセージをドニーに向けました。「僕がこの音楽の世界で自分を信じることができるのは、ドニーのおかげなんだ。ドニーは何もないところから、スターになった。何もない僕にとって、ドニーは希望なんだ。ドニーにできたんだから、僕だってできるってね!」 その言葉にドニーは大きくうなずき、ステージから降りたジョナサンと固いハグを交わしていました。ドニーは、ゴスペル歌手を発掘するテレビ番組「サンデーベスト」で審査員を務めていましたし、きっと若いアーティストたちにも影響を与えているのでしょう!
エリカ・キャンベル。人気ゴスペル姉妹デュオ「メアリー・メアリー」のお姉さんの方、と言えば分かる人もいるでしょうか。彼女もドニーの音楽ファミリーの一員で、私も何度かお会いしたことがあります。「ドニーは、私にとって兄のような人。私が音楽で悩んでいたときに『どんなに大変でも、そのまま歌い続けなくてはダメだよ』と言って励ましてくれた人です。今の私があるのは、ドニーのおかげ」と言い、バースデーコンサートに参加できたことに感謝の言葉を伝えていました。
シーシー・ワイナンズも、ドニーの音楽ファミリーの一員。1982年、クリスチャンのテレビ番組「Praise The Lord」で、兄とのデュオ「ビービー&シーシー・ワイナンズ」としてデビュー。その後も、ソロとして大活躍しているゴスペルアーティストです。グラミー賞も12回受賞歴があり、キャリア30年の大物。故ホイットニー・ヒューストンの友人でもあり、2人のデュエット曲「Count On Me」は、私の大好きな曲の一つです。レコーディングアーティストとしての実力は超一流で、すぐ目の前で彼女の歌を聴くことができ、個人的にものすごくテンションが上がりました!「ドニーはたくさんの人を音楽で励ましてきた私の自慢の兄」と、お祝いのメッセージを伝えていました。シーシーの兄であるマーヴィン・ワイナンズは、ドニーを牧師に導いた先生です。きっと特別な絆があるのでしょう。
そして、ドニーにとってのサプライズプレゼントが、次のステージでした。この日のために特別に結成されたバックコーラスシンガーたちによるパフォーマンス。圧巻でした。このシンガーたちは、これまでドニーのバックコーラスを務めてきた人たち。今やそれぞれがソロとしても活躍している忙しいシンガーたちですが、この特別な日のために集まってくれました。メンバーには、オレンジゴスペルで来日してくれたナンシー・ジャクソン・ジョンソンや、アンドレア・マクラーキン・メリニの姿も。忙しい彼らは当日、早めに集まって、こっそりとリハーサルをしたそうです。さすがは実力者たち。当日リハーサルだけだったとは思えない、鳥肌もののステージでした。
こちらもサプライズ。ドニーを牧師に導いた師匠であり、ゴスペル歌手で牧師のマーヴィン・ワイナンズは、この時までずっと客席に座っていました。コンサートのプログラムには入っていませんでした。が、ドニーが歌い始め「ほら、一緒に!」と何度も呼び掛け、最初は嫌々前に出たマーヴィン。「僕がブロードウェイのショーをやっていたとき、ドニーをリードボーカルの代役として起用したんだ。僕は、この素晴らしいシンガーをどうしても世界に披露したかったからね」と、ドニーとの出会いを話し始めたのですが、ドニーは「話はいいから、一緒に歌おうよ~」と何度も呼び掛けました。あまりのしつこさに諦めて歌い始めると、もう止まりません!ドニーのヒット曲「Stand」を歌い始め、師弟コンビの熱唱が始まりました。この曲が始まったとき、私は涙が出てきて撮影に集中できなくなりました。なぜなら、この曲は私が13年前にうつ病になり、自殺を考えていたころに励まされた楽曲だったからです。
「何もかもなくなってしまっても、最善を尽くしたのなら、後はただ立っているだけでいいんだよ」というシンプルなメッセージのこの歌。「Stand=立つ」という意味ですが、ただ立つのではなく、「立ち上がる」「踏み留まる」というような意味も込められた「Stand」。「もう、ボロボロになってしまったけど、とりあえず立っているだけでいいじゃないか」。そんなメッセージが私に毎日語り掛け、もう一度私は信仰に立ち返ることができました。思わぬ展開に私もちょっと涙でした。
トラメイン・ホーキンスもプログラムにはなく、客席にいてドニーの誕生日のお祝いに駆け付けたセレブの一人。ゴスペル界の偉大なるボーカリストです。1968年から、エドウィン・ホーキンス・シンガーズのリードボーカルとして有名になり、1999年には国際ゴスペル音楽栄誉殿堂入りを果たしています。マーヴィン・ワイナンスがマイクを取ったのですから、彼女にマイクが向けられないわけがありません! 客席で座りながらマイクを持ち歌い始めましたが、だんだんと力が入り、自ら立ち上がって熱唱を始めました。この様子に出演者のエリカ・キャンベルらが大喜び! 観客もプログラムになかった素晴らしいパフォーマンスに大感激でした。
大御所トラメインが立ち上がって歌い始めると、ドニーはエリカ・キャンベルやキエラ・シェアードにもその後に続くようマイクを渡しました。急にマイクを渡されても歌うことができるのは、ゴスペル歌手の素晴らしいところ。何があってもアドリブで歌えるのです。小さい頃から教会に通い歌ってきたからこそできる技でもありますが、彼らが歌っているのは譜面に書かれた音楽ではなく、それぞれのソウル(魂)だからなんだと思います。小さい頃から母カレン・クラーク・シェアード(クラーク・シスターズ)と一緒に歌っていたキエラも、もちろん物怖じすることなく歌い始めました。ステージ上のソロでは、「ドニー本人の前で歌うのは、すごく緊張するけど・・・」と言いながら、ドニーの大ヒット曲「I Call You Faithful」を披露しました。もちろん、観客も一緒に大合唱でした。
他にも、ここには書ききれない人たちがたくさんお祝いに駆け付け、コンサートが終了したのは夜11時を回っていたように思います。あっと言う間の4時間でした。このバースデーコンサートの前日(15日)には、昨年から手掛けていたCDアルバム「A DIFFERENT SONG」を、ドニー自身のレコードレーベル「カムドンミュージック」が製作し、RCAインスピレーション(ソニー)から共同リリースしたばかり。実はその中の一曲「There Is God」のライブレコーディング会場にいた私がプロモーションビデオにちょっと出ています(笑)。良かったら見てください!
私の活動「オレンジゴスペル」(子ども虐待防止の「オレンジリボン運動」をゴスペルで啓発する活動)にも、ドニーは強い関心を示していて、2020年のオレンジゴスペルへの参加を希望しています。世界中を飛び回っているセレブが、私たちのような弱小イベントに参加してくださるというのは信じ難いですが、実現されることを日本の皆さんと共に祈っていけたらと思います。現在すでに2020年のオレンジゴスペルに向け、東京・新潟・群馬・静岡・大阪・神戸・福岡・愛媛で実行委員会が立ち上がってきています。このプロジェクトにご関心ある方、何らかのご協力をしたいという方がおられましたら、是非オレンジゴスペルの公式サイトの「お問合せ」からご一報ください。
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