「人は皆、草のようで、その華やかさはすべて、草の花のようだ。草は枯れ、花は散る。しかし、主の言葉は永遠に変ることがない」(新約聖書・ペトロ一1:24~25)
「わたしたちが犠牲になることなく、システムを変えるただひとつの方法は、悪魔が張り巡らした蜘蛛(くも)の巣の罠(わな)一つひとつに対し、力強く「ノー」と声をあげることである」(『ガンディー魂の言葉』より)
人間が絶対に犯してはならない罪は、人を殺すことです。人殺しの戦争と、そのためのあらゆる軍事基地を私たちは決して許すことはできません。
私は子育ての中で、感謝することを大切にしてきました。目に見えるものだけが決してすべてではなく、目に見えない世界を見ること、神を畏れることを、大切にして生きてきました。今、人々は見えるものだけがすべてとする現実、物質主義に陥り、見えない世界の真理と価値を学ぼうとはせず、畏れを知らない者となってしまいました。身近では安倍政権の政治家を見ているとよく分る通りです。今や畏れを知らない人間たちがこの地球をわがものとし、またこの国を支配しています。一体、人間とは何者なのでしょうか。
「主(神)を畏れることは知恵の初め、聖なる方を知ることは分別の初め」(旧約聖書・箴言9:10)
神を畏れることを忘れた人間の能力と限りなき欲望は、いみじくもガンジーが語っているように、悪魔が張り巡らした罠にはまってしまったのです。
沖縄の辺野古・大浦湾の埋め立ては、人間が絶対にしてはならない悪の一つです。それは神が何万年もの時をかけて創造された人類の宝もの、悠久の海だからです。この辺野古・大浦湾の海が日本初のホープスポット(希望の海)に認定されました。このプロジェクトを進める米国の環境NGO「ミッション・ブルー」を立ち上げたのは、世界的に有名な海洋学者、シルビア・アール博士です。この世界に100以上あるホープスポットのネットワークに加わることができたのです。辺野古・大浦湾一帯は数千種の生物がすむ多様性を持ち、その内200種以上が絶滅危惧種に指定されています。青サンゴ群落が発達し、ジュゴンがすんでいました(埋め立て工事が始まってからその姿は見えなくなっています)。海ガメが悠々と泳ぐ海です。
大浦湾は海の生態系と陸の生態系が一つにつながったところであり、そのシステムが日本の海全体の健康を守るために重要であることを示しています。大浦湾の海水温は、陸の生態系とつながっている故に温暖化の影響が小さく、深層では海水温が冷たく保たれています。そのおかげでサンゴの白化現象から守られているのです。ちなみに、石垣島と西表島一帯の日本最大規模の石西礁湖では、80パーセント近いサンゴが白化、死滅しています。
大気が巡り、海が空気と水を与えてくれるのです。この海への感謝、自然の恵に生かされている感謝を忘れてはいませんか。昔の人々は自然の中で神に感謝し、目に見えない世界への畏れを持って生き、そこにさまざまな文化、信仰が生れてきたのです。今や人間は、感謝と畏れを忘れ、自然を破壊し続け、その欲望は宇宙にまで拡大しています。その先には何がありますか。恐ろしい滅亡へのしるしが見えているではありませんか。
「地とそこに満ちるもの、世界とそこに住むものは、主(神)のもの。主は、大海の上に地の基を置き、潮の流れの上に世界を築かれた」(旧約聖書・詩編24:1)
もしも大浦湾を埋め立てて軍事基地を造ったら、そこには恐ろしい海の死が待っているでしょう。私たちは心で泣きながら「NO」を叫び続けています。米国政府と日本政府を相手に、そして目の前に立ちはだかる機動隊員、防衛局員、警備員、土砂・資材を運ぶダンプの運転手、ミキサー車の運転手に向かって、工事に協力しないよう呼び掛け続けているのです。
悪魔が張り巡らした蜘蛛の巣の罠から脱け出す方法はただ一つです。今すぐに悪をやめる決断をして、勇気を持って実行するリーダーが米国と日本両国に現れること。安倍政権の一日も早い退陣を沖縄の民は切実に願っています。
10月31日未明、首里城が炎に包まれ、11時間燃え続け、主要な世界遺産が焼失してしまいました。夢かと思う突然の現実に言葉を失い、全県民が悲しみに沈みました。首里城復元は敗戦後の沖縄にとって悲願であり、1992年ついに復元を成し遂げ、2000年12月に世界遺産に登録されました。それがたった27年で一瞬にして焼失してしまうとは!!
私の心に迫ってきた思いは、人間が作ったこの世の形あるものは決して永遠ではなく、滅びてしまうという事実に対する無力感とむなしさでした。そして、形あるものはまた新たな力を結集して再建できるという、もう一方の事実をも思いました。そんな中、さらに強く迫ってきた思いは、辺野古・大浦湾を埋め立てて失ってしまったら、二度と永久に戻らないという現実の厳しさでした。だから私は、首里城を失った悲しみの中であえて声を大にして叫びたいのです。首里城よりも大切なものは、神が与えてくださった辺野古・大浦湾の宝の海なんです、と。
玉城デニー沖縄県知事は火災の翌日、首相官邸に菅義偉官房長官を訪ね、首里城再建の支援を要望しました。なぜこんなに早くなのかいぶかりつつ、この機会に辺野古の新基地建設をやめて、そのお金で首里城再建をと言ってほしかったと思うのは私だけでしょうか。首里城再建の声の中で、辺野古が忘れられていくのではとの不安と危機感。反対闘争を支える辺野古基金は底を突きそうなのに、首里城再建のためには何と1週間で4億円以上の義援金が集まったことに驚きました。出火の原因がまだはっきりと特定されていないとはいえ、国民の税金を使うことがよいのか。2022年の沖縄の日本復帰50年記念までに再建をと、知事が急ぐことに不安を覚えます。全面的支援を約束した安倍政権に恩を売られ、沖縄の魂が抜き取られ、琉球が日本のナショナリズムに取り込まれ、国に利用されることになりはしないか不安を抱きます。
辺野古ゲート前のテントに集った人々の中から、この義援金は被災地で苦しんでいる人々の救済と、貧困の子どもたちの救済のためにこそ使うべきだとの意見が語られました。首里城はみんなの力でゆっくり再建したらよいと。これこそがウチナーの心だと私は感動し、この心をみんなと共に生きていきたいと願いました。
9日夜、天皇陛下の即位を祝う「国民祭典」に3万人が参加しました。日の丸旗を振り、君が代を歌い、「天皇陛下万歳」を何度も叫び続ける民衆の姿に、天皇制国家日本、戦前回帰を見て、天皇制と安保条約を支持する圧倒的多数の国民の中で、沖縄は再び切り捨てられていくのだと思い知らされました。首里城と共に「沖縄植民地歴史博物館」をつくり、充実させて平和の発信地とすることで、首里城の歴史も生きてくるのではと思いました。新しい発想の転換が必要とされる時だと思い、すべてのことに意味があるのだと考えさせられています。神は一人一人の真実な思い、願い、祈りを決して無にはなさらないと信じます。
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石原艶子(いしはら・つやこ)
1942年生まれ。16歳で無教会の先生との出会いによりキリスト者となる。全寮制のキリスト信仰を土台とした愛農学園農業高校に奉職する夫を助けて24年間共に励む。1990年沖縄西表島に移住して、人間再生の場、コミュニティー西表友和村をつくり、山村留学生、心の疲れた人たちと共に暮らす。2010年後継の長男夫妻に委ね、夫の故郷、沖縄本島に移住して平和の活動に励む。無教会那覇聖書研究会に所属。