再犯者の割合が年々増え続ける中、再犯防止推進法に基づいて各地方自治体が計画案を策定するなど、再犯防止に向けた取り組みに社会の関心が高まっている。刑務所から出所した人に、教会は何ができるのか。出所者の社会復帰を助けるNPO法人「マザーハウス」の五十嵐弘志代表は、「まずは出所者支援について知っていただくこと。そして、できる範囲で行動してほしい」と話す。
前科3犯で20年近く服役した当事者でもある五十嵐さんは、自身が更生するきっかけとなったキリスト教の精神に基づいて7年前からマザーハウスの活動を始め、これまでに約50人の社会復帰に関わってきた。中には、マザーハウスとの関わりをきっかけに信仰を持ち、教会に通う人もいる。「イエス様がそうされたように、教会はたとえ元受刑者であっても訪ねてくる一人一人を大切に受け入れてほしい。対応が難しければ、ただ疎外するのではなく、私たちのような団体につなげてほしい」と五十嵐さんは話す。
「出所者支援を考えることは、クリスチャン一人一人が信仰を見つめ直すきっかけになる」と五十嵐さんは指摘する。「イエス様は文字通り、はらわたがえぐられるような思いで十字架にかかり、命を捨てるほどにその人を愛し、今苦しみから救おうとされている。そのイエス様に目を向ければ、目の前で助けを求める出所者を放っておけないはずです」
昨年9月には、東京都墨田区にあるマザーハウスの事務所が入るビル横の倉庫を改装し、当事者たちが運営するカフェ「マリアカフェ」をオープンした。当事者の居場所づくりと、地域の人たちとの触れ合いの場を提供することが目的だ。「学生も来てくれています。当事者と触れ合うことで感じるものがあるようです。当事者を目の前にして生の声を聞くことが、いろいろな意味で価値があるのだと思います」
五十嵐さんは、全国の教会や学校などを巡り、自らの体験談を交えて出所者支援の必要性について講演している。最近、五十嵐さんの講演会に参加したある教会のブラザー(修道士)から、次のような手紙が届いた。
お話の内容は素晴らしく、考えさせられることも多々ありました。同時に、波乱万丈の人生を歩んでこられた五十嵐さんの親しみやすい人柄、何よりもイエスに出会った喜び、お恵みを伝えようとするその熱情、意気込みに、大変惹(ひ)かれるものがありました。イエスの愛に触れた方はホントにすごいですね。周りの社会、組織、環境に関係なく、このイエスの愛に人をつなげようとする・・・。その熱意にあふれ、その力が内面からほとばしり出て、みなぎっている・・・。そんな雰囲気を五十嵐さんに強く感じ取ることができました。復活したイエスに出会い、毎日の活動(過ちを犯してしまった人たちを見捨てない)の中で、その出会いを日々更新していらっしゃるお姿を感じました。
イエス・キリストとの出会い=ゆるし、受容、そして神さまの愛に触れる=他者(ひと)をその愛につなげていく・・・という、小さな悟りに似たようなものを得ることができました。私も五十嵐さんに倣い、私とイエス・キリストとの出会いという原点に立ち、その出会いを更新しながら、そのイエスの愛に触れ、今度は私が出会う人々をイエスの愛につなげていく、という熱情に満たされながら、日々歩んでいけたらと思っています。
とても大切なことに気付かせてくださった五十嵐さんに、そして神さまに感謝!です。
昨年10月には、マザーハウス主催で「受刑者のためのミサ」が東京都千代田区のカトリック麹町教会(聖イグナチオ教会)で行われ、カトリック東京教区の菊地功大司教とジョセフ・チェノットゥ駐日バチカン大使が共同で司式を担当した。カトリック、プロテスタント双方から参加があり、服役中の受刑者たちも時間を合わせて祈りに加わった。
教会こそ、出所者支援のために立ち上がってほしいと五十嵐さんは話す。「当事者の声を聞いてみると、一人一人が心に大きな傷を負っていることに気付かされます。そこを救うことができるのはキリストです。まずは知ることから始めてほしい」
今年も10月19日にカトリック麹町教会で「受刑者のためのミサ」が行われる。五十嵐さんは「カトリック、プロテスタントは問いません。キリスト者として、受刑者の改心のためにぜひ一緒に祈ってほしい」と参加を呼び掛けている。
マザーハウスの活動についての詳細はホームページを。
■ 五十嵐さんの著書:『人生を変える出会いの力―闇から光へ』(ドン・ボスコ社、2016年)