74回目になる8月15日の終戦記念日を迎えるに当たり、日本キリスト教協議会(NCC)の⾦性済(キム・ソンジェ)総幹事と、「東アジアの和解と平和委員会」など、人権、平和を扱うNCC内の6つの委員会の委員長が「平和の共同メッセージ」を発表した。
メッセージは、「平和を祈念するこの8月に、わたしたちは、この日本の内外の激動の中で、今あらためて平和の意味を問い、わたしたちの信じ、仕える主イエス・キリストからゆだねられた平和をつくりだす使命(マタイ福音書5:9)への自覚を、聖霊に励まされ新たにいたします」とし、11月に行われる天皇の代替わりの皇室行事「大嘗祭(だいじょうさい)」や、企画展「表現の不自由展・その後」が中止となった国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」をめぐる問題などについて見解を示した。
共同メッセージに加わった委員長は、飯塚拓也(東アジアの和解と平和委員会)、星出卓也(靖国問題委員会)、北村恵⼦(⼥性委員会)、⼩泉嗣(部落差別問題委員会)、李明⽣(在⽇外国⼈の⼈権委員会)、原⽥光雄(都市農村宣教〔URM〕委員会)の6氏。
最初に扱った問題は、宗教色が強い行事でありながらも、公費が使われる大嘗祭。メッセージは、「宗教⾏事以外の何ものでもない⼤嘗祭の国家⾏事化」だと厳しく批判。社会的儀礼や習俗的行為であれば、宗教分離の原則から除外されるとする自民党の憲法改定案を踏まえつつ、「政教分離原則の空洞化を意味する欺瞞(ぎまん)行為というほかありません」と述べた。
慰安婦問題や韓国人元徴用工訴訟問題などをめぐって悪化する日韓関係については、諸問題の根源を「歴史に向き合う姿勢の問題」と指摘。「過去に国家が犯した過ちを隠蔽したり、歪曲することなく直視し、誠実に謝罪を表明し、その戦後責任として生存する被害者がたに可能な限りの癒しに向けた処遇を果たすことにより、ゆるしと和解と信頼の回復にたどり着こうとする良心的な対応が待たれている」とした。
「あいちトリエンナーレ」をめぐる問題については、「人権としての『表現の自由』と、歴史認識の問題が深くつながり、しかもそれが日本において現在深刻な状況に置かれていることを知ることになりました」と述べた。その上で、「わたしたちはこの問題を不問にして平和の問題を語れないことを自覚しなければなりません」と強調した。
そして、福島第1原発事故の放射能被害や、米軍普天間基地の辺野古への移設計画をめぐる問題にも言及した上で、憲法9条の重要性を語った。
メッセージは「憲法9条の精神」について、「聖書的には、『敵を愛し、自分を迫害する者のために祈りなさい』(マタイ福音書5:44)の主イエスの福音に裏付けられる、心の武装解除」と説明。「⽇本の軍事⼤国化への道を封じる最後の防波堤」として機能してきただけでなく、「人種差別と偏見により、⺠族的少数者らへの嫌悪と排除、そして攻撃を先導するヘイトスピーチに対しても、断固として否を突き付け、平和的共生を叫ぶ倫理的根拠をも支えます」と述べた。
外国人労働者については、「安価な取り換え可能な労働力」ではなく、「歓待されるべき移⺠」であり、「共に平和な共生社会を作り上げる隣人」として迎え入れるべきだと主張。「日本の行政と社会のみならず、わたしたちキリスト教会の宣教の課題としても求められています」と述べた。そしてここでも、憲法9条の精神について触れ、「すべての⺠族に対し差別を許さない心の武装解除の倫理として和解と平和の共生社会の構想へとわたしたちを導く道しるべともいえる」とした。
メッセージの最後には、ヨハネによる福音書20章21節「あなたがたに平和があるように。父がわたしをお遣わしになったように、わたしもあなたがたを遣わす」を引用。「わたしたちは、この主の福音の命令を託されて、今新たに聖霊を主の息として吹きかけられて導かれ、自由と正義と平和を揺るがすこの時代の政治の嵐の中を、恐れずに主イエス・キリストの指し示すいのちと平和の向こう岸を目指しながら進み続けます」と述べた。