世界最大の教会学校「メトロ・ワールド・チャイルド」(MWC)の創設者、ビル・ウィルソン氏は、ペンテコステ派の影響を受けて育った。しかし、彼の願いはあらゆる教派の教会と協力し、世界中の子どもたちを伝道する方法を分かち合うことだという。
私がミニストリーの定義を尋ねると、ウィルソン氏は次のように答えた。「真のミニストリーとは、変えられた人生です。ハドソン・テイラーは、中国奥地宣教団(CIM)を立ち上げるために中国に行きました。しかしその前に、変えられた人生について語りました。大勢の年配の宣教師たちを見てください。彼らは片道切符だけの宣教師です。スーツケースに所持品を詰め込んで持っていく代わりに、ひつぎを買うのです。なぜなら、宣教地から帰国するのは自分が死んだときだと分かっていたからです。変えられた人生を生きる人とは、そういう人たちのことです」
「真のミニストリーとは、救世軍の創設者ウィリアム・ブースが言ったことです。真のミニストリーとは、変えられた人生です」とウィルソン氏は繰り返した。
昼食をまともに取ることができないまま、ウィルソン氏は、インドネシアから教会学校を見学するために2日間ほど来ていた一行に会うために階下に向かった。
「先生はかたくななまでに、自分の能力や奉仕の成功を自慢しないようにされています。なぜですか」と私は尋ねた。
「私は自分が生まれながらに才能のある人間だとは思っていません。これは偽りの謙虚さではありません。私は自分自身を知っています。でも私は一生懸命努力して言葉や文化、個性や伝道について学びました。それは容易ではありませんでした。努力が必要でした」とウィルソン氏は答えた。
「今日の私の考え方の基礎を真に築いた最大の資産は、私が若い頃に奉仕した2つの教会です。それらの教会は傑出しており、牧師たちは牧師としても指導者としても並外れていました。また、人と人とのつながりが強固でした。私がそこでの経験から吸収したものの多くは、私が(教会学校の働きの中で)長年構築しようとしてきたものです」
「2人とも非凡な牧師でした。1人は60年代と70年代にフロリダ最大の教会の牧師になり、もう1人の牧師が牧会した教会は、米国で最も急成長する教会となりました。それ故、私は人格に恵まれた人物、誠実さが特徴的な人物、人間関係が強固な人物、極めて訓戒的な人物の身近にいる機会を与えられたのです。私は彼ら自身とその働きの実を通して、私の人生に影響を与えた人たちの周りにいることができるという恵みを受けたのです。また、私はその働きに加わることもできました」
「当時はメンターシップというものはありませんでした。2人はただ、私の仕事はこういうものだと教えてくれたのです。そして私は『分かりました』と答えました。(2人がそうする)理由が私には分かっていたからです。2人は私がやり方に気付けるように導いてくれました。MWCで私たちが行ったことの大部分は、試行錯誤によるものでした。うまく行ったこともあれば、うまく行かなかったこともありました。うまく行かなかったものは捨て去り、うまく行ったものはさらに発展させました」
70歳のウィルソン氏は、大抵の人の3倍は人生経験を持っている。英ウェールズ大学からは博士号を授与されており、著書も出版しており、大学やセミナーで定期的に講演したり、講師として教えたりしている。また教会やカンファレンス、テレビやラジオの番組からも依頼を受けて毎週出掛けている。そこではMWCのビジョンや使命を分かち合い、一人の人物が大きな影響をもたらすことができると教えている。
ウィルソン氏はMWCのチャイルド・スポンサーシップ・プログラムを通じて、子どもたちの支援に人生をささげてきた。また昨年には、教会学校の働きのために闘う決意を固め、70歳を祝う記念として、活動資金50万ドル(約5400万円)を集めるため、アフリカ最高峰のキリマンジャロに登った。
ウィルソン氏は決して歩みのペースを落とすことがないように見える。しかし、燃え尽き症候群に陥ることがないよう注意しており、自分の「生活レベル」をわきまえているという。ウィルソン氏の定義によると、その生活レベルとは、誰もが効果的に生きることのできる「中道」だという。
泣くのと同じくらい笑っているとウィルソン氏は語る。それが人生のバランスだと言い、余暇には読書もする。
「私は読書においては貪欲で、20代前半から週に1冊は読んでいます。というのは、人前に出る機会がよくあるからです。大学やテレビ番組で教えますし、金曜日はスタッフに話しますし(この聴衆はかなり大変な相手です!)、世界中のカンファレンスでも話します。ですので、新鮮さと優位性を保つ必要があるのです」とウィルソン氏は語る。
「私は生活の中で常に情報を得ています。私が読む本のほとんどは、アマゾンで買えない本です。1700年代から1800年代にかけての昔の説教者たちが書いた本で、すでに絶版になった本です。著者たちは歴史を理解していました。歴史を学んだ説教者の著書を読むと、聖書の見方が完全に変わります。それが私の個人的な時間の使い方です。良書を手に取って、飛行機の中で読むのです。そうすることで常に情報を得ることができて、役に立ちます」
ウィルソン氏は何度も世界を旅しているが、ニューヨークは今もお気に入りの場所だという。
「それは私が留守にすることが多いためです。支援金を集めたり、働きを宣伝したりなど。どんな状況でも説教しますし、多くの国の人たちに説教しますから。出掛けないときは、チームやスタッフとここにいて、バスを運転して教会学校をすることを楽しんでいます。そうすることで目的を思い出すのです。ご存じの通り、私はとても目的志向の人間です。ですから、留守が多いと行動の目的を見失いがちになると思うのです。絶えずここに戻ることで、目の前に目的を掲げることができます。そうすることが、目的を果たすことにつながるのです」
しばらく前からウィルソン氏は、ある儀式を行うようになったという。朝、目覚めると、自分の顔を平手でピシャリとたたいてこう言うのだ。「よーし、今日も目が覚めた。もう一日生きるチャンスがあるということだ」
「私は70歳ですから70年間生きているわけです。ここまで来ると、毎日が贈り物であることが本当に分かります。眠りに就くとき、いつも思い浮かべるのは次のことです。『今日なすべきことをやり切れていると良いのだが。数時間前に与えられた贈り物(今日を生きる命)を御国のために役立てないと』」
ウィルソン氏は、信仰の戦いを立派に戦い、決められた道を「走りとおした」と言うことができるよう、一日の終わりに願うという。
この日の説教では、次の言葉を語った。「くぐり抜けた炎の数を示せないうちは、自分の信仰がどれほどかを語ってはいけない」。この言葉は私の脳裏に響いた。なぜなら、ウィルソン氏はそれを果たしていたからだ。
最後に私は、どのような霊的遺産を残したいかと尋ねた。
「それについてはあまり考えません。自分のすべきことをして人に投資すれば、その人が霊的遺産になると思います。霊的遺産とはそういうものです。私の霊的遺産は、世界中で牧師やユースパスター、宣教師をしている世代のうちにあります。霊的遺産は、私が毎週耳にする証しの中に見られます。かつては12番バスに乗っていた子どもたちが、今は大人になっています。私にとって霊的遺産とは、人が作るものではありません。他人のために生きた人生から、生み出されるものなのです」
ウィルソン氏は3月、自身4冊目のリーダーシップ指南書となる『エレファント・オブ・レレバンス』(英語)を出版した。さらに今夏は、ドバイからアジアを巡回伝道する予定だ。(終わり)
(執筆者:ジェニー・ロー=クリスチャンポスト記者)
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ビル・ウィルソン氏は6月下旬~7月上旬に来日し、大阪(6月29日〔土〕、VIP関西センター)と、東京(7月6日〔土〕・7日〔日〕、玉川聖学院)でセミナーを開催する。詳細は、メトロ・ワールド・チャイルド・ジャパンのサイトを。