約500年前にレオナルド・ダビンチが描いたとされ、「サルバトール・ムンディ」(「救世主」の意味)として知られる美術品史上最高額で落札されたキリスト画が、アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビで姿を消した。
米ニューヨーク・タイムズ紙(英語)よると、この絵画はサウジアラビアのバドル・ビン・アブドラ・ビン・ファルハン・アルサウド王子が2017年11月に約4億5千万ドル(約500億円)で落札したもので、現在は売りに出されていない。
アルサウド王子は昨年、サウジアラビア初の文化相に就任し、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の代理を務めてきたと考えられている。
絵画購入の約1カ月後、アブダビ文化観光局は、アラブ世界初の国際的美術館「ルーブル・アブダビ」で展示すると発表した。しかし同紙によると、昨年9月に予定されていた絵画の発表は説明もなくキャンセルされたという。
文化観光局の職員は現在、絵画に関する質疑応答を拒否しているが、「ルーブル・アブダビの職員は絵画の所在については何も知らないと非公式に語っている」と同紙は報じている。
美術の専門家らは絵画が間もなく展示されることを期待しているが、万が一この世から消えたとしたら「嘆かわしいこと」だと一部ではささやかれている。
「サルバトール・ムンディ」に詳しい米ニューヨーク大学美術研究所のダイアン・モデスティーニ教授は、「これは嘆かわしいことです」と同紙に語った。「芸術愛好家やこの絵に感動した多くの方々からこのように希少な傑作を奪うのは極めて悪質です」と言う。
英オックスフォード大学のマーティン・ケンプ教授(美術史)は、この作品は「モナリザの宗教版」であり、ダビンチの「捉えどころない神的で最も力強い言葉」だと評している。しかし絵画の所在については、ケンプ氏も「どこにあるかは私にも分からない」と話す。
「サルバトール・ムンディ」は1500年代に描かれたとされており、ケンプ氏によると、英国のチャールズ1世が1649年に処刑された後、彼のコレクションの目録に記載された2つの類似作品のうちの1つだという。そして、18世紀後半に歴史的な記録から姿を消した。
その後19世紀に、英国人実業家のコレクションに再び姿を現し、その当時はダビンチの弟子の一人によるものだと鑑定された。しかし2005年に、ダビンチの作品として見直され、修復のためにモデスティーニ氏に預けられた。
最近絵画が姿を消して以来、作品の真正性について新たな懸念が浮上したが、モデスティーニ氏は「(その懸念は)ナンセンスだ」としている。
一部の芸術家は、サルマン皇太子が絵画を自分のものにしたのだと推測し、他方では、何らかの悪意が働いたのではないかと疑う声もある。