宗教界のノーベル賞と呼ばれる「テンプルトン賞」の今年の受賞者が、ブラジル出身の理論物理学者、マルセロ・グライサー氏(60)に決まった。同賞を主催するジョン・テンプルトン財団が公式サイトで発表した。グライサー氏は、人類が神秘的なものや未知のものを受け入れるのに、科学、哲学、宗教それぞれが相補的な役割を担っているとする見解を提唱している。
テンプルトン賞は、米国の投資家ジョン・テンプルトン氏が1973年に創設。宗教間の対話や交流に貢献した存命の宗教者や思想家、運動家などに贈られる。賞金額は約110万ポンド(約1億6千万円)とされ、ノーベル賞に匹敵する世界最大の年間個人賞の一つ。第1回の受賞者はマザー・テレサで、テゼ共同体の創設者であるブラザー・ロジェや、大衆伝道者のビリー・グラハム氏、キャンパス・クルセード・フォー・クライスト(CCC)の創設者であるビル・ブライト氏、反アパルトヘイト運動を導いたデズモンド・ツツ元大主教など、キリスト教関係者の受賞も多い。日本人では、立正佼成会の開祖である故・庭野日敬(にっきょう)氏が受賞している。中南米出身者の受賞は今回が初めて。
グライサー氏は、ダートマス大学(米ニューハンプシャー州)の自然哲学名誉教授であり、物理学および天文学の教授でもある。著書や論文、ブログ、テレビ、学会などを通じて国際的な評価を受けている。母国のブラジルでは、著書がベストセラーとなり、出演するテレビ番組の人気も高い。
35年にわたり、広範なテーマで研究を重ねてきたグライサー氏によると、科学とは、宇宙の起源や地球上の生命の起源を理解するための霊的探求だという。グライサー氏の研究分野は、量子論や素粒子論、初期宇宙論、相転移力学、宇宙生物学などに及び、情報理論に基づいたエントロピー(情報量)や複雑性の新しい測定方法の研究なども行ってきた。
グライサー氏は、自然界の本質に関する究極の真理を解明するのは科学しかない、という考えを否定する代表的な科学者として知られている。そればかりではなく、著名な知識人としての経歴を生かして、科学と人文科学、宗教の間に歴史的、哲学的、文化的つながりがあることを明らかにしてきた。また、科学では答えられない疑問に関する知識を得るための補完的な手法についても論じている。
ジョン・テンプルトン財団のヘザー・テンプルトン・ディル会長は声明で、次のように述べた。
「グライサー氏は、私の祖父がテンプルトン賞を創設し、ジョン・テンプルトン財団を設立する動機となった価値観を体現しています。人生のあらゆる面において喜びを追求すること、また、人が畏敬の念を深く体験すること。この2つが父にとって特に重要な価値観であり、財団のさまざまな助成金の目的でもあるのです」
「グライサー氏の仕事は、否定しがたい探検の喜びを表しています。彼は、コパカバーナのビーチで少年時代に初めて体験したのと同じ畏敬の念と驚きを今も持ち続けています。彼は地平線や星空を眺めながら、その向こうにあるものに興味を覚えました。著書の『物理学は世界をどこまで解明できるか』(原題:The Island of Knowledge)の中で書いておられるように、『畏敬の念は過去と現在を結ぶ架け橋です。私たちが探求し続けるとき、畏敬の念は私たちを未来にいざなってくれるのです』」
受賞を受けクレイザー氏は、「科学的理解と科学的探究への道は、世界の物質的な部分だけではありません」とコメント。「私の使命は、科学と科学に興味を持つ人たちに神秘なものへの愛着を取り戻させることであり、科学は人間存在という神秘に関わる一つの方法にすぎないことを人々に理解させることなのです」と語った。
授賞式は5月29日、米ニューヨークのメトロポリタン美術館で行われる。