キリスト教迫害監視団体「米国オープン・ドアーズ」は16日までに、キリスト教徒に対する迫害がひどい上位50カ国をまとめた最新の報告書「ワールド・ウォッチ・リスト2019」(英語)を発表した。それによると、世界で最も迫害がひどい国は北朝鮮で18年連続。また、ヒンズー教過激派による弾圧が激しいインドが初めてワースト10入りし、政府による締め付けが報じられている中国は43位から27位に急上昇した。
このリストは毎年作成されているもので、「迫害指数」(最高100)によって各国の状況が評価されている。襲撃事件などの暴力行為だけでなく、生活における制約や礼拝・改宗の自由、職場や地域社会での嫌がらせなど、キリスト教信仰を持つことでかかる「圧力」も評価に反映される。指数に応じて「極度」「非常に高度」「高度」と迫害の状況が分類され、50カ国中「極度」とされたのは11カ国で、「非常に高度」は29カ国、「高度」は10カ国だった。
今回リストに挙げられた50カ国に住むキリスト教徒は約2億4500万人で、2億1500万人だった前年に比べ、3千万人増加した。世界のキリスト教徒のうち9人に1人が、高レベルの迫害に直面していることになる。同報告書によると、自身の信仰を理由に殺害されたキリスト教徒は昨年4136人に上り、襲撃された教会堂やキリスト教関連の建物は1266に上った。
迫害がひどい上位3カ国は前年と変わらず、18年連続の北朝鮮に、アフガニスタン、ソマリアが続いた。4位は前年7位だったリビアで、5位は前年から引き続きパキスタンだった。その後、6位スーダン(前年4位)、7位エリトリア(同6位)、8位イエメン(同9位)、9位イラン(同10位)、そして10位インド(同11位)が続いた。
また、前年は迫害状況が「非常に高度」とされ15位だったシリアは今回、迫害状況が「極度」となり11位に上がった。一方、前年8位で「極度」の迫害があるとされたイラクは13位となり、迫害の状況は「非常に高度」に下がった。
米国オープン・ドアーズは、キリスト教徒に対する迫害の著しい傾向の一つとして、特に女性を狙った迫害を挙げている。
「多くの国々で、女性たちは『二重の迫害』を受けています。理由の1つはキリスト教徒であることですが、もう1つは女性であることによるものです。制限が著しく厳しい国々では、少数派であるキリスト教徒のコミュニティーを破壊する主な手段は女性を迫害することです。この種の迫害は(構造的に)複雑で、暴力的であり、人目に付きにくいため調査が困難です。特に女性が狙われる多くの国々では、迫害件数を正確に報告することは不可能ではないにしても困難といえます」
リストの上位10カ国のうち7カ国は、イスラム教による弾圧が迫害の主な原因となっている。イスラム教の家庭に生まれ、その後イエス・キリストに従う決心をしたために、著しい差別に遭うことになったキリスト教徒は多く、米国オープン・ドアーズは、イスラム教による迫害が大きな課題となっていると述べている。
もう一つの不安材料は、イスラム教の過激派勢力がアフリカのサハラ砂漠以南で拡大していることだ。
最近は、過激派組織「イスラム国」(IS)による事件の報道が少なくなったが、ISの過激なイデオロギーは多くの影響を与えている。同報告書は「(ISは)『イスラム国西アフリカ州』(ISWAP)をはじめとする無数の枝グループの結成要因となっており、それらのグループに浸透しています。ISWAPはナイジェリアのボコ・ハラムから枝分かれした残虐なグループで、不可欠な戦略としてキリスト教徒の女性や女児を奴隷化しています」と指摘する。
米国オープン・ドアーズが注目したもう一つの傾向は、国家の権威主義が世界中で高まっていることだ。
ベトナムやミャンマー、中国、北朝鮮のいずれもが、国家による宗教の統制を強化していると警鐘を鳴らす。これを実現可能にした要因の一つは「パーソナルデジタル技術の普及」だという。顔認証システムや電子チップなどにより、政府が個人を追跡できるようになったためだ。
米国オープン・ドアーズのデイビッド・カリー会長兼最高責任者(CEO)は、同団体の取り組みに対する支援に感謝を示す一方、それはニ次的な祝福にすぎないと指摘。「ワールド・ウォッチ・リストのポイントは、世界中の神の家族を強め、その苦しみに光を当てることにあります。つまり、私たち全員を祈りに駆り立てて、兄弟姉妹と共に立ち上がらせることにあるのです」と述べた。
■ 「ワールド・ウォッチ・リスト2019」ブックレット版(英語)
■ 「ワールド・ウォッチ・リスト2019」地図版(英語)