南米初のロマ語新約聖書が今年7月、チリの首都サンティアゴの国立図書館で発売された。
日本聖書協会によるとこのロマ語聖書は、聖書協会世界連盟の翻訳者トレーニングを受けたロマ人のフアン氏とヨルゲ・ニコリッヒ氏が、翻訳コーディネータなどと協力して約4年がかりで翻訳したもの。チリ聖書協会とブラジル聖書協会の関係者が共同で出版を企画し、初版としてブラジル聖書協会から5000部が出版された。
ロマは、インド北西部(パンジャブ地方)発祥の民族で、今日では世界各国に居住する独自の文化を持つ少数民族。15世紀初頭には中央ヨーロッパ、16世紀には北欧、17世紀にはヨーロッパからアメリカ大陸に渡ったとされ、現在の人口は欧州連合(EU)内で約1000万人、ラテン・アメリカでは約150万人とされている。
また、ユダヤ人と並んで歴史的に多くの迫害を受けてきた民族でもあり、今年7月にはイタリアでロマ人を対象にした指紋押なつ政策が導入されるなど、現在も世界的に根強い差別を受けている。チリでもロマ人が疎外されている状況は顕著で、6000人から8000人のロマ人が国内にいるとされているが、いまだ正式な人口統計は行われていない。しかし、今月16日にはロマ人への差別撤廃に向けた初の全欧会議がブリュッセルで開かれるなど、ロマ人への世界的な関心も高まっている。
日本聖書協会によると、6月に開かれた出版記念集会でチリ聖書協会のパブロ・アルヴァレズ理事長は、今回の出版がロマ語を話す人たちのみならず、チリの豊かな文化へ貢献する意義深い事業であると語った。