国連で「世界孤児の日」を国際デーとして制定するよう求める大会が15日、米ニューヨークの国連本部に近い「ジャパン・ソサエティー」で開催された。日韓の政治家やキリスト教関係者らが参加した。大会では、高知出身のクリスチャン女性、故田内千鶴子(韓国名・尹鶴子=ユン・ハクチャ)氏が孤児たちを育てた施設「共生園」の創立90周年記念式も行われ、ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会の峯野龍弘牧師がメッセージを伝えた。
大会は、共生園の創立90周年と、国連の世界人権宣言70周年を記念したもので、「子どもたちに笑顔と希望を!」がテーマ。共生園の創立90周年記念式、国際フォーラム、請願大会の3部構成で行われた。日本からは、別所浩郎(こうろう)国連大使があいさつを述べたほか、自民党の二階俊博幹事長や福井照(てる)沖縄・北方担当相が祝辞や講演メッセージを送った。その他、日本財団の笹川陽平会長や高知県の尾崎正直知事、鳩山由紀夫元首相らもビデオでメッセージを寄せた。
「世界孤児の日」制定の提唱者は、ソーシャルワーカーの田内基(もとい、韓国名・尹基=ユン・ギ)氏。田内氏は、戦中戦後に韓国南部の全羅南道(チョルラナムド)で3千人の孤児を育て「韓国孤児の母」と慕われた千鶴子氏の長男だ。田内氏は「世界孤児の日」には、▽これ以上孤児を出さないために戦争を防止する平和運動、▽孤児たちの人権を保護する人権擁護運動、▽孤児たちが自分の才能を生かして自立した大人になれるよう支える生命尊重運動――の3つの意味があるとし、制定に向けた協力を求めた。
記念式は、ニュージーランド大阪教会の高田義三(よしかず)牧師の司式で行われた。峯野氏はメッセージで、「神御自身、『わたしは、決してあなたから離れず、決してあなたを置き去りにはしない』と言われました」(ヘブライ13:5)や、「わたしは、あなたがたをみなしご(孤児)にはしておかない」(ヨハネ14:18)などの聖書の言葉を引用。「神の御心は、決して孤児を生み出さず、どこまでも孤児のない世界を実現することにある」と強調した。その上で「『世界孤児の日』の制定は、単に故田内千鶴子氏の願いではなく、それ以上に神の御子、主イエス・キリストご自身の御心」と伝えた。
別所氏は、日韓関係が時折悪化する中、共生園のような日韓が協力できる働きに力付けられたと、駐韓大使時代を回顧。子どもたちの権利を守ろうとする「世界孤児の日」の制定は、世界人権宣言の精神そのものだとし、その意義を強調した。
都合のため出席できず祝辞を送った二階氏は、昨年、共生園を訪問したとし、孤児たちのために生涯をささげた千鶴子氏や、自身も孤児と共に育てられた田内氏の人生について言及。「人の哀しさを知ることが福祉の第一歩と私は思います。いえ、これは私たち政治家にこそ言えることです」と述べ、「世界中から孤児をなくそうというこの訴えは、この世の哀しみの元凶である戦争をなくそうという平和への祈りが込められたもの」と伝えた。
国際フォーラムでは、高知県議会元議長の西森潮三(しおぞう)氏があいさつに立ち、孤児の問題は日本では見えにくいが、世界では戦争やテロ、貧困などで今なお多くの孤児たちが生じている現状を指摘。「この現状を世界の皆様に知っていただき、夢ある子どもたちの希望を世界の一人一人が思うことができる機会を作りたい」と語った。
続いて、韓国の元国連大使でセーブ・ザ・チルドレン韓国理事長の呉俊(オ・ジュン)氏が「共生の90年、世界孤児の日を」と題して、在英マラウィ高等弁務官のヘザーウィック・ムタバ氏が「マラウィにおける子どもの権利と孤児」と題して、米スター財団牧師ディレクターのロジャー・ピゴット氏が「世界孤児の日のためのスター財団の取り組み」と題して講演した。福井氏は講演を予定していたが、都合で参加できず、代わりに「国連津波の日制定からみた共同提案の重要性」と題する講演メッセージを送った。
請願大会では、「私たちの願い」として、韓国の金大中元大統領夫人でアジア太平洋平和財団理事長の李姫鎬(イ・ヒホ)氏、日本財団会長の笹川氏、全羅南道知事の金瑛録(キム・ヨンロク)氏、高知県知事の尾崎氏、元首相の鳩山氏、俳優・歌手の張根碩(チャン・グンソク)氏、ソウル市長の朴元淳(パク・ウォンスン)氏がビデオでメッセージを伝え、「請願決議文」(記事下に記載)を採択した。
代表あいさつを述べた韓国農林部(農林水産省)元長官で日韓キリスト教議員連盟代表会長の金泳鎮(キム・ヨンジン)氏は、千鶴子氏の生涯を「愛の黙示録」と言い、「今を生きる人類を目覚めさせる愛の種となり、われわれすべてを感激させます」とコメント。朝鮮戦争により多くの孤児たちが出た韓国を、国連や米国など諸国が支援したことに触れ、「受けた熱い愛と支援を、今度はわれわれも分かち合い、力強くなっていこうと思います」と語った。
その後、韓国人として初めて日本の宮中歌会始に招かれた詩人、故孫戸妍(ソン・ホヨン)氏の娘で自身も詩人である李承信(イ・スンシン)氏が、詩「わたしたち皆が孤児」を朗読。田内氏が「世界孤児の日」の提唱者としてあいさつし、最後に参加者全員で「You Raise Me Up」「アメイジング・グレイス」を合唱して幕を閉じた。
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請願決議文
- 子どもは、祝福されて生まれ、国籍・人種・宗教・文化など、出身背景に関係なく、愛で養育されなければなりません。
- 家庭崩壊・貧困・疾病・戦争などで父母の愛に育まれない子どもに対しては、当該国家と社会は、法や制度で、安全と養育を保証しなければならない責任があります。
- 父母の世話が不可能な場合、当該国家と社会は、子どもが愛の溢(あふ)れる家庭で幸せに成長できるよう、養子縁組文化の定着を積極的に推進し、実行しなければなりません。
- 孤児養育のための収容施設は、一般家庭と区別や差別されて運用されてはなりません。
- 孤児は、普通の児童と全く同じ夢を持って、自身の意志で自立できなければなりません。民主市民として成長できる教育の機会が、提供されなければなりません。これが、国連が明らかにした子どもたちの人権であります。
- 天災地変や疾病、国家間の紛争などで発生する孤児に対して、擁護機関の特別援助が優先的になされなければなりません。
- 孤児は、大義名分のない犯罪や不当な労働などの反教育的な仕事に動員されてはなりません。
- 国連をはじめ、すべての国際機構は、地球村で発生している孤児に対する制度と処遇に対して、人権的な次元で優先的に迅速な救護と国際間の協調がなされるように緊密に調整していかなければなりません。