特定医療法人「葦(あし)の会」が運営するオリブ山病院(那覇市)の創立60周年記念講演会が14日、宜野湾市民会館大ホールで開催された。オリブ山病院は1958年、精神科・神経科の「たがみ医院」として始まった。創立者の故・田頭政佐(たがみ・せいさ)氏は洗礼を受けてからは、医療におけるキリスト教信仰の具現化を目指し、特に精神科医療や老人医療、終末期医療などの分野で尽力。83年に「オリブ山病院」と改称し、同年、沖縄で最初のホスピス(終末期ケア施設)を開設した。記念講演会では、淀川キリスト教病院理事長の柏木哲夫氏が「いのちに寄り添うホスピスケアに学ぶ病院」と題して講演した。以下に、講演会に参加した渡真利彦文氏(胡屋バプテスト教会牧師)のレポートを掲載する。
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オリブ山病院の創立60周年記念講演会が14日、宜野湾市民会館で開催された。講師の柏木哲夫先生は、日本のホスピスケアの第一人者で、キリスト者である。講演はプロジェクターを用いながら、言葉を適切に用い、分かりやすく話され、さらに整理された内容、ユーモアも交えながら展開された。柏木先生のぶれることのないホスピスケアへの思いと現場の話は、説得力に満ちていた。ホスピスケアを受けられる患者やその家族への心遣いや接し方が目に浮かぶようであった。
言葉の使い分けでは「からだ」には安全、「こころ」には安心、「たましい」には平安を用い、3つの中でも「平安」は上から来る、つまり神様からやってくると話された。その3つのことは、「良き死」とも関わりがあることを興味深く話された。「良き死」とは、まず体に関しては「苦しくない死」で安全さを体験し、また他者との関わりの中で心に持つことのできる「交わりの死」は安心をもたらし、さらに魂において「平安な死」へと導かれ、その時には誰にも奪われることのない平安を感じると話された。
また、私たちが地上の生涯を送る際に大切なことをまとめて整理してくださった。それは、「3つの和解」についてである。その3つとは「自分との和解」「周りとの和解」「超越者との和解」であった。そして、誰もが持つ充実した人生を送りたいという願いに対して、その実現のため大切な3点を紹介された。第一に「感謝する人生」、第二に「散らす人生」、それはお金や時間、技術を他者のために用いて他者のために生きることであり、第三は「委ねる人生」、それは主にある気楽さを味わえる人生だというのである。
多くのことを学んだ講演であったが、柏木先生のまとめの言葉は特に心に響いた。それは、「末期とは衣がはげ落ちて魂がむき出しになった状態」と言われたことである。普通、死を待つ状態の中で希望を持てるのか、あるいは一条の光を感じることができようかと思う。しかし柏木先生はまもなく生涯を終えようとするある親子の会話を語られた。「行ってくるね」に対し、「行っていらっしゃい」との親子のやりとりであった。死にゆく者は永遠の命への確信を持ち、見送る者は再会の確信を持って応えたという。それは希望に満ちた姿であったと思う。
記念講演は、葦の会・オリブ山病院の創立の精神「傷ついた葦を折ることなく、ほのぐらい灯心を消すことなく、真実をもって道を示す」(イザヤ42:3)をまさしく指し示す内容となった。医療に携わる人や病と闘う人だけではなく、すべての人にとり必要な希望に満ちたメッセージであった。自分の心が豊かになったことを感じつつ、帰途に就いた。