1966年に起きた一家4人の殺人事件で死刑が確定し、半世紀以上無実を訴え続けているカトリック信徒の袴田巌(はかまだ・いわお)さん(82)=浜松市=について、東京高裁は11日、再審請求を認めない決定をした。事件をめぐっては静岡地裁が14年、再審開始を決定。袴田さんは逮捕から48年ぶりに釈放されたが、検察が即時拮抗していた。弁護側は高裁決定を不服とし、最高裁に特別抗告する方針。国内各紙が伝えた。
静岡地裁は、証拠とされた袴田さんのものとされる犯行時の衣類5点について、衣類に残っていた血痕が、弁護側のDNA型鑑定の結果、袴田さんや被害者のものと一致しないことが分かったとし、新証拠として認定。衣類が事件の1年2カ月後に発見されたこともあり、捏造(ねつぞう)の可能性も示唆し、再審開始を決定していた。
弁護側は本田克也・筑波大学教授に依頼してDNA型鑑定を行っていたが、東京高裁はその検証を、検察側推薦の鈴木広一・大阪医科大学教授に依頼。鈴木氏は昨年6月、本田氏の鑑定手法を否定する報告書を提出していた。
東京高裁は、再審請求は取り消したものの、袴田さんの年齢や健康状態などを考慮し、死刑と拘置の執行停止は取り消さなかった。
1936年、静岡県雄踏町(現浜松市)に生まれた袴田さんは59年に上京し、プロボクサーとして活躍した。その後、同県清水市(現静岡市清水区)のみそ製造会社に勤務。66年6月30日未明に、同社専務の男性方から出火し、男性を含む家族4人が亡くなる事件が発生した。袴田さんは同年8月に容疑者として逮捕され、連日長時間の取り調べを受けて「自白」。公判では無罪を主張したが、80年に最高裁で死刑が確定した。
84年のクリスマスイブに、獄中で教誨師の故・志村辰弥神父から受洗。獄中では聖書を読んでは祈っていたという。92年には、獄中で書きつづった身の潔白と再審を願う祈り、家族への思いなどが支援団体の編集でまとめられ『主よ、いつまでですか』(新教出版社)として出版されている。