上智大学(東京都千代田区、曄道佳明=てるみち・よしあき=学長)は、3月1日に「人間の安全保障研究所」(所長:青木研・経済学部経済学科教授)を開設すると発表した。昨年11月に文部科学省が主導する私立大学研究ブランディング事業で、同大の事業が採択されたことに伴うもの。
同大によると、「人間の安全保障(Human Security)」とは、「人間一人一人に着目し、生存・生活・尊厳に対する広範かつ深刻な脅威から人々を守り、それぞれの持つ豊かな可能性を実現するために、保護と能力強化を通じて持続可能な個人の自立と社会づくりを促す考え方」。国連総会では2012年、「人間の安全保障」の共通理解に関する総会決議が採択されており、今後の世界における最重要課題の1つに位置付けられている。
同研究所で扱う課題は、「貧困」「環境」「医療」「難民」「平和構築」の5つ。これまでは、個々の研究者がそれぞれの問題意識に基づいて取り組んできたが、同研究所では、複数の学部・学科が連携した学際的、横断的なアプローチで、それぞれの研究を「人間の安全保障」という概念の下に統一的に捉え直していく。
「人間の安全保障」に関する国際的な研究拠点となることを目指し、特に深刻な状況に陥っているアフリカや東南アジア、南アジアを主な対象フィールドとし、「人間の安全保障」の実現を加速させることを目標とする。
また、同研究所の成果を、大学全体の教育やキャリア形成の支援にも広げることで、同研究所が扱う5つの分野で活躍できる人材養成にも取り組む。同大は「国際機関を目指す学生のみならず、すべての学生に対して人間の尊厳に配慮した活動の重要性を伝えていきます」としている。
5つの課題については、下記のテーマを設けて研究を行う。
- 貧困: 貧困層のリスク対応力(レジリエンス)を高め得る介入方法についての検証と、貧困削減に資する制度や貧困削減に至るメカニズムの特定
- 環境: 水質・土壌・大気汚染に関する既存の環境規制の効果の定量的評価と強化策の提案
- 医療: ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成に向けた公的医療保険制度の検証と、ガバナンス強化への政策提言
- 難民: 最適な難民受入れの実現に向けた福祉指標の開発と、受け入れ負担を衡平化する国家間補償スキームの設計
- 平和構築: 国家の統治機構を再生し、持続的な平和をどう達成するかの提言