レオナルド・ダビンチが描いたと考えられている約500年前のイエス・キリストの肖像画が15日、米ニューヨークで行われた競売で、美術品としては史上最高の4億5030万ドル(約506億円)で落札された。世界最大手の競売会社クリスティーズによって売りに出され、未公開の買い手は4億ドル(約450億円)の値を付けたが、手数料などの追加料金を加えると総額で4億5030万ドルに上り、当初の落札予想価格1億ドル(約112億円)を大きく上回った。
落札されたのは「サルバトール・ムンディ」(「救世主」の意味)と呼ばれる油彩画。ダビンチによる「救い主キリストの傑作」と紹介され、かつてはチャールズ1世やチャールズ2世、ジェームズ2世ら、歴代の英国王が所有していた。
入札は2億4千万ドル(約270億円)から始まり、徐々に高値が付けられていった。4億ドルで入札が行われると室内の競売人らは皆、固唾(かたず)をのんだが、歴史的瞬間を目の当たりにして喜んだという。
この作品は「モナ・リザ」の男性版とも呼ばれ、鮮やかな青と真紅(しんく)のローブに身を包んだキリストが、祝福の印として右手で天を指し、左手には地球の形をした水晶玉を持っている。
「サルバトール・ムンディ」は、1763年に競売にかけられた後、長い間所在が分からなくなっていた。1958年にロンドンで行われた競売で、米国の収集家が45ポンド(約6600円)で買い取ったが、その時は贋作(がんさく)と考えられていた。2005年に再び売りに出され、新しい所有者が約6年にわたる鑑定を行った結果、本物であることが分かった。
さまざまな報告書によると、この作品は1500年代に描かれたもので、ダビンチにとっては「ただの非公式な作品」だったと考えられている。ダビンチは1519年にこの世を去っており、現存するダビンチによる絵画は世界で20点に満たない。
オールド・マスター(古い大画家の作品)や19世紀の美術の専門家であるティモシー・ハンター博士は英BBC(英語)に、この作品は「21世紀で最も重要な発見」だと語った。
「最後の巨匠ビンセント・ファン・ゴッホによる『ひまわり』(1888年)の1987年の落札記録を、完全に破っています。時として記録が破られることはありますが、これほどの差がつくことはありません。ダビンチが描いた油絵は20枚足らずで、多くは未完成ですから、この作品は極めて希少です。私たち専門家は大喜びしています」
ゴッホの「ひまわり」は1987年、日本の安田火災海上保険(現・損保ジャパン日本興亜)が、1枚の絵画としては当時最高額となる約3990万ドル(当時の為替で約53億円)で落札した。それまでの最高額は、85年に落札されたアンドレア・マンテーニャによる「東方三博士の礼拝」(1462年)の約1200万ドル(同約15億9千万円)で、それを大きく上回ったことから注目を集めた。
一方、「ひまわり」の記録はその後すぐに破られており、「サルバトール・ムンディ」が今回の記録を出す前は、競売では2015年に約1億7940万ドル(約202億円)で落札されたパブロ・ピカソの「アルジェの女たち」(1955年)が、個人売買では14年と15年にそれぞれ約3億ドル(約338億円)で売却されたポール・ゴーギャンの「いつ結婚するの」(1892年)と、ウィレム・デ・クーニングの「インターチェンジ」(1955年)が最高額だった。
「サルバトール・ムンディ」の前所有者は、ロシアの大富豪収集家、ドミトリー・E・リボロフレフ氏で、13年に個人売買により約1億2750万ドル(約143億5千万円)で購入したと報じられている。