映画「地の塩 山室軍平」を手掛けた東條政利監督が5日、東京キリストの教会(東京・渋谷区)の礼拝に参加した。礼拝では、映画でも引用された賛美歌「たてよ、いざたて」(54年版『賛美歌』380番)が歌われ、報告の中で東條監督が映画に込めたメッセージを短く伝える時を持った。
「山室軍平は明治時代、貧しさを理由に遊郭に売られた女性たちを救いたいという一心で、娼妓(しょうぎ)の自由廃業運動を起こしました。その他にも、復員して職のない兵たちに職をあっせんしたり、家庭内暴力に悩む女性を助けたりと、目の前で苦しむ人を救うために人生をささげた人です。僕は彼のその『人のために生きたい』という情熱に引きつけられました。岡山の貧しい村で生まれた彼の熱い思いを描きたいと思いました」
礼拝後には東條監督を囲んでの昼食会が催され、作品を鑑賞した人からの感想や質問に、東條監督は丁寧に答えた。
――山室軍平をはじめ、一人一人のキャラクターがとても立っていました。どんなふうに演技指導をされたのですか。
僕は演技指導をするというよりは、テーマを決めて俳優さんたちに動いてもらうという作り方をしています。軍平のキャラクターについては、主役を演じた森岡龍君と相談しながら作り上げました。森岡君は軍平に関連する本を読んだり、礼拝に参加したり、クリスチャンはどういうものであるかということから学んでいました。キャラクターは、他の登場人物を演じる俳優の演技によっても作られます。人間関係を作るために、時には台本に書かれていないシーンもリハーサルをしたりして、キャラクターを探求しました。
――クリスチャンとしての心の葛藤や浮き沈みが丁寧に描かれていました。あえてクリスチャンであることをストレートに表現しようと思われたのはどうしてですか。
この映画はクリスチャンを描こうと思って作ったわけではないんです。とにかく目の前にいる困った人を助けたい、そして何があってもへこたれない、そんな軍平に魅力を感じて映画を作りました。彼の信仰の部分を丁寧に描いたのは、何よりもそれが彼の思いを支えていたからです。
登場人物の中では、一途で真っすぐな軍平に最も共感します。映画の制作にあたっては、資金のことなど、数々の苦難があり、完成までに2年の月日を要しましたが、軍平が人のために尽くす姿を知ったから、僕も乗り切ることができました。僕も毎日祈っていたんですよ。
――「地の塩」というタイトルはどのようにして決められたのですか。
制作側からは、クリスチャンではない人には分からないんじゃないか、という声も上がりました。「地の塩」は、聖書はもちろん、軍平が書いた『平民の福音』の中にも登場する言葉なんですね。塩は、料理の味付けや漬物などに使うように、他のものに混ざることで用いられる。人間も、他の人たちに交わることで初めて役に立つ。軍平は「生きているこの地で用いられる塩になりなさい」と説きました。僕自身も、人は心の在り方が重要だと感じましたし、心を尽くして生きていきたいと思いました。映画を通して初めてこの言葉を知った人にも、何か感じてもらえたらうれしいです。
「地の塩 山室軍平」は東京では11月25日~12月9日にポレポレ東中野で上映されるほか、全国で随時上映される。(※木曜日限定で英語字幕上映)