脱北者の鄭光逸(チョン・クァンイル)氏(54)が17日、350個のヘリウムガス風船を使って、聖書の一部のデータが入ったUSBメモリー千個を、韓国側の国境から北朝鮮に向けて飛ばした。
UPI通信(英語)によると、韓国を拠点とする脱北者団体「ノー・チェーン」の創設者である鄭氏は、韓国北西部の京畿道(キョンギド)の国境付近から北朝鮮領内に風船を飛ばした。USBメモリーは、米国の大学生や高校生らが寄付したものだという。
「私たちは、すべての風船が北朝鮮の金剛山(クムガンサン)地域に落下したのをGPSで確認しました」。金剛山は、北朝鮮南東部の江原道(カンウォンド)に位置している。鄭氏は「今年はこの打ち上げで最後です。風向きが変わってしまうからです」と続けた。
鄭氏は北朝鮮で、無罪だと主張していた罪状により、労働教化刑を言い渡され、2000年から3年間、収監されていた。03年に脱北し、韓国で北朝鮮に対する人権活動を行っていたが、現在は韓国外に拠点を置いて活動している。
米アトランティック誌(英語)によると、鄭氏はヘリウムガス風船や密輸人、ドローンなどを使って、ハリウッド映画や韓国のテレビ番組、脱北者の証言などさまざまなものを記録したUSBメモリーやSDカード、その他のデバイスを北朝鮮に送っている。
「最近では、(チュニジアの)ジャスミン革命やアラブの春(の映像)を送りました」。昨年8月のアトランティック誌の記事で、鄭氏はそう語る。「北朝鮮ではどうしてこういった革命が起こらないのでしょうか。その理由は簡単です。この国では情報が遮断されているのです。民衆は、自分たちの状況が本当に恐ろしいものであることを知りません。私たちは無知を打破したいのです」
大まかな見積りによると、北朝鮮では、約1割の世帯にパソコンがあり、都市部の場合、約半数の世帯が中国製のポータブルメディアプレーヤー「ノーテル」を所有している。
迫害下のキリスト教徒を支援する「殉教者の声」(VOM)の韓国支局も15年、北朝鮮南部に聖書を送った。
VOM韓国支局の代表を務めるエリック・フォリー牧師は、「北朝鮮では、聖書を所持することが危険であることは子どもでも知っています。(海外から支給された)靴下や衣服、食糧でさえ危険なのです。聖書を拾う人々は、自分たちの行為が非常に危険で、処刑される恐れさえあることを知っています」と言う。
脱北者のリム・ヒヨンさん(26)が最近、英デイリー・ミラー紙(英語)のインタビューで語ったところによると、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、学校から連れてきた10代の子どもたちを性奴隷として囲い、民衆が飢えている一方でぜいたくな生活をし、公開処刑を見るよう子どもたちにも強制するという。
現在、ソウルに住んでいるリムさんは、15年に平壌から母親と弟と一緒に逃げることができた。父親のリム・ウイヨンさんは51歳で亡くなったが、呼べばいつでも駆け付けてくれる存在だったという。金正恩政権に関して秘密裏に知恵を授けてくれたのも、朝鮮人民軍の大佐をしていた父親だった。
リムさんは北朝鮮にいたとき、同級生たちと共に、ポルノビデオを作った罪で訴えられた11人の北朝鮮人音楽家の公開処刑を見るよう命じられたという。
「音楽家たちは引き出され、縛られた上で、フードで目隠しをされ、猿ぐつわをされているようでした。彼らは黙ったままで、命乞いをすることも叫ぶこともしませんでした。私はその日、それを見たせいで胃の調子が悪くなりました。音楽家たちは対空砲が鳴り響く中、鞭(むち)で打たれていました」
キリスト教の迫害監視団体「オープン・ドアーズ」によると、北朝鮮の労働収容所では5万〜7万人のキリスト教徒が苦しめられている。
また、英国に拠点を置く別の迫害監視団体「世界キリスト教連帯」(CSW)の昨年の報告書によると、北朝鮮の共産党政権は、キリスト教徒らを道路工事用のスチームローラーでひき殺したり、激しく燃える炎の上で十字架刑にしたり、橋の上から集団で落としたり、他の残酷な手段を使って拷問したという。さらに、血縁者に対しても共謀罪を適応し、キリスト教を信じているか否かを問わず勾留するという。