キリスト教学校教育同盟の第61回大学部会研究集会が7、8の両日、青山学院大学総研ビル会議室で開催された。主題は「ICT時代の大学教育――新しい世代の心をとらえる授業とコミュニケーション」。ICTとは「情報通信技術(Information and Communication Technology)」の略で、タブレット端末の導入などが進む現在の教育現場で、若者たちとコミュニケーションをどうとるかが話し合われた。
最初に塩谷(しおたに)直也氏(青山学院大学宗教部長・法学部教授)が「『逃げ道』と『摂理』」と題して講演した。100人の学生を前にして授業を行う塩谷氏は、情報端末などはまったく使わず、手作りの教材による対面授業を行う。その中でモットーとするのは、少ない言葉で多くを語ること。
「授業で語られる言葉は歌詞と同じ。そこにいいメロディーをつけることで、その言葉は何百倍もの力を持って学生の心に届く。授業では、何が語られるかより、語る言葉にどんなメロディーがつけられているかが大切。そのメロディーを作り出す音符とは、授業で語るために費やす準備と工夫、および学生への対応(パストラルケア)」
塩谷氏は実際、紙芝居など手作り教材を通して「手間」を渡すことで、「あなたに会うのを楽しみにしていた」というメッセージを学生に伝えるようにしている。また、独自のネームカードを作り、毎回そのカードを見ながら一人一人の名を呼び、顔を見ながらあいさつして、手作りの御言葉入り出席票を渡す。それを最後の授業の時に束にして返すことで、学生一人一人に自分がかけがえのない存在であることを実感してもらうようにしているという。「均等な愛ではなく、偏愛の経験値が、大学でこそ必要とされているのではないか」と塩谷氏。
「日本の教育は『死んでも逃げるな』ということをこれまで教えてきた。それに対して聖書は、『試練と共に、それに耐えられるよう、逃れる道をも備えていてくださいます』(1コリント10:13)と語る。聖書が逃げることを許すのは、そこにも神がいてくださるから。また、『依存先の分散』が大切。『縦の関係』だけでなく『斜め関係』など、道は1つだけでなく、たくさんある。そのことをいろいろなメロディーと共に学生に伝えていきたい」
続いて、江口再起(さいき)氏(ルーテル学院大学総合人間学部教授)が「アナログ・コミュニケーションの『すすめ』」と題して話した。
「時代の趨勢(すうせい)は電子機器を使うのが当然のようになっているが、ものごとはバランスが大切。どこかでアナログとバランスをとらなければならない」と、一貫してアナログな授業をしてきた江口氏は釘を刺す。
「情報の電子化は今後ますます発展し続けるが、人間が不幸になっていく気がしてならない。制御できない科学技術に手を出している不気味さがある。今の学生がこの先どんな大人になっていくのかが全く見えず、だからこそ無責任な愛は語れない」
そのような状況の中で大学教育でできることとして、江口氏は「授業の明確さ」を挙げた。
「これは、優しく、ゆっくりと、といった類いのものではなく、しゃべっている本人が語っている内容について腑(ふ)に落ちているかどうか。たくさん話しても、学生がたくさん受け止めるわけではない。自分の中で深く『そうなんだ』と分かったことをしゃべらないといけない」
「一般の大学でキリスト教学を教える目的は、キリスト教を理解してもらうためだが、それと同時に、学生たちにキリスト教に対して好感を抱いてほしい。特に中学や高校もミッションスクールだった学生はかえってキリスト教への関心が薄いので、キリスト教を嫌いになってほしくない。そのためには、生身の人間を通して、その先生の情熱が伝わればいいのではないか」
そして最後に、「神がこの世界を作ったのだから、悪くなるはずはないと信じている」と締めくくった。