戦時下のポーランドの修道院を舞台にした映画「夜明けの祈り」が8月、日本で公開される。本作は、フランスのアカデミー賞にあたる第42回セザール賞に主要4部門(作品賞、監督賞など)でノミネートされており、カトリック中央協議会広報に推薦作品として認定された。
第二次世界大戦末期の1945年、ソ連兵の蛮行によって妊娠させられたシスターたちを献身的に支えた実在の女性医師マドレーヌ・ポーリアックが主人公のモデル。彼女は、信仰と絶望のはざまでもがき苦しむ修道女の希望の光となった。
先週、アンヌ・フォンテーヌ監督が主演のルー・ドゥ・ラージュさんと共に来日。フォンテーヌ監督が本紙のインタビューに応じた。
――テーマの1つでもある「信仰」。監督にとって「信仰」とは。
私はカトリックの教育を受けて育ちましたが、強い信仰を現在もなお持っているわけではありません。しかし、創造論を信じ、愛というものも信じています。
信仰は、対立させてはいけないものだと思っています。相手の信じているものを否定して、自分の信じているもののみが正しいという考え方が現在の状況。それぞれの信仰を尊重するという姿勢が大切なのではないかと考えています。
――映画の中で、修道女たちが傷つき苦しみながらも、赤ちゃんの心音を聞き、徐々に母親になっていく姿が描かれていました。「母性」と「信仰」が似ている点、似ていない点はどこだと思いますか。
修道女になるということは、母親になるのを諦めることです。しかし、彼女たちは意思に反して、暴力という形で妊娠してしまいました。妊娠してしまった7人の修道女は、それぞれ違う反応を示します。ある人は出産した後、修道院を出て、母親になると決めた女性もいます。ただ、彼女は信仰を捨てたわけでも、教会を捨てたわけでもないと思います。
「母性」と「信仰」が似ている点といえば、「生命に対する畏敬の念」でしょうか。この作品では戦時下における悲劇的で衝撃な事件を題材にしてはいますが、本来、信仰を持ちつつ母親になることは大切なことだと思います。
――映画制作に入る前に修道院で実際、修練もされた感想は。
私の父は教会のオルガニストで、叔母も修道女なので、修道院は私にとって決してなじみのない場所ではありません。しかし、今回、改めてベネディクト修道院の黙想会に伺い、短い時間ではありましたが、多くのことを学びました。
修道院に流れている時間は、外での時間とはまったく違います。祈りがあり、賛美があり、ミサがある。それが毎日繰り返されるのです。「静寂」があることも印象的でした。その中で風の音や自然の音が聞こえてくるのです。
それから修道女についてですが、同じ服を着て、固い信仰で結ばれている彼女たちは皆、同じ思想を持っていると思っていました。しかし実際、中に入って触れ合ってみると、一人一人違い、実に多様性に富んだ人たちだと感じました。
――修道院での生活は映画作りに役立ちましたか。
映画に挿入されているグレゴリオ聖歌などは、私が今回訪れたベネディクト修道院の神父様が提案してくれたものです。
また先ほども話しましたが、修道院の「静寂」の中にある風の音、雪の上を歩く音、また修道女が慌てて走ってきた時の息遣いの音などを大切にしました。「静寂」の美しさを皆さんにも知ってほしかったのです。
――読者にひと言お願いします。
この映画の基になっているのは実話です。非常にショッキングなことだと思います。ポーランドの修道院でこのような事件が実際に起きたという衝撃をまず感じてほしい。その衝撃の深さが、女性たちの連帯によって新たな希望につながるということを感じてもらえればうれしいです。
■ 8月5日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開