9日午後、40度のうだるような暑さの中、英国国教会のトップであるカンタベリー大主教ジャスティン・ウェルビーは、伝統的にイエス・キリストが洗礼を受けた場所だとされているヨルダン川西岸の「カスル・エル・ヤフド」を訪れた。この地は、1967年の第3次中東戦争(6日間戦争)の時期、多数の地雷が埋められた地域で、2011年まで閉鎖されていた。周辺にはまだ多数の地雷があり、除去作業が続けられている。
ウェルビー大主教は、地雷除去を行う国際NGO「ハロ・トラスト」の後援者でもある。ハロ・トラストが、古代の教会や修道院もあるカスル・エル・ヤフドの地雷除去のために150万ドル(約1・7億円)の資金を募ったとき、大主教は未公表の金額を寄付している。
地雷に対する責任は今も議論されているが、紛争の結果、多くの対戦車地雷や対人地雷が、イエス・キリストが洗礼を受けたとされる場所に埋められた。地雷は第3次中東戦争の時期に、現在のヨルダンとの国境となっているヨルダン川に沿って敷かれ、その結果、約50年にわたり、その地にある教会には自由に行くことができない状態が続いている。
ハロ・トラストは冷戦終結時に設立され、現在は世界最大の地雷除去機関となった。タリバンなどのグループの元戦闘員を含む7500人の従業員を雇用しており、ヨルダン川西岸では2014年から、イスラエルとパレスチナの両当局の承認を得て地雷を除去している。
9日は、ウェルビー大主教と、元英陸軍少将のジェームズ・コーワン氏の再会の時でもあった。現在はハロ・トラストの最高責任者(CEO)であるコーワン氏は1年前、英国でウェルビー大主教と会っている。
コーワン氏は、現在の自分の仕事を「和解」だと語った。そして、ウェルビー大主教や地元教会の指導者たちに、除去され、無効化された幾つかの地雷を見せ、現代の技術によって地雷がどのように発見されたかを示した。
「平和の希望をもたらすために、ハロ・トラストが戦争で用いる武器を使っているのを見て、奮い立つ思いでした」。ウェルビー大主教は感動した様子でそう述べ、「私が今日考えさせられていることは、神が贖(あがな)うことのできないものは何もないということです」と語った。
地雷についての説明を受けた後、ハロ・トラストの帽子をかぶったウェルビー大主教は、世界中の巡礼者が歌い、洗礼を行うために訪れる川岸に降りた。12日間にわたる聖地訪問中のウェルビー大主教はちょうど1週間前、ヨルダン川東岸のヨルダン領側に立ち寄り、ハロ・トラストの働きのために祈っていた。
ハロ・トラストは現地で9月から、5、6カ月間ほどかかる地雷除去作業を開始することを計画している。地雷地帯では、カトリック教会と、アルメニア、コプト、エチオピア、ギリシャ、ルーマニア、シリア、ロシアの7つの正教会が、教会や土地を所有している。
この周辺には推定で計3800以上の地雷が埋められていると考えられているが、毎年約30万人の観光客が訪れている。
イエス・キリストが洗礼を受けたと考えられている場所には他に、ヨルダン川東岸(ヨルダン領)の「アル・マグタス」もある。アル・マグタスは2015年、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界文化遺産に登録されている。