ドイツのプロテスタント教会が、アフリカ南部の国ナミビアで20世紀初頭、当時のドイツ帝国が現地の先住民族に対して行った大虐殺(ジェノサイド)について謝罪した。声明では、聖職者が直接虐殺行為を呼び掛けたことはなかったとしつつも、植民地支配を神学的に正当化することで、大虐殺に加担したと指摘。「これは大きな罪であり、全く正当化されるものではない」とし、ナミンビアの人々に赦(ゆる)しを求めている。
ナミビアの虐殺について謝罪したのは、ドイツ人口の約3割が所属する同国の主流なプロテスタント教派である「ドイツ福音主義教会」(EKD)。マタイによる福音書6章22節から「わたしたちの負い目を赦してください」と題した声明(ドイツ語・英語)を、4月24日に発表した。
ナミビアは当時、「ドイツ領南西アフリカ」とされ、ドイツ帝国の植民地だった。大虐殺は1904〜07年、先住民族のヘレロ族とナマ族に対して行われたもので、20世紀最初の大虐殺とされている。死者は、ヘレロ族が2万4千人〜10万人、マナ族が全人口2万人の半数に当たる1万人に及んだと考えられている。
EKD副議長のペトラ・ボッセ・フーバー監督は、謝罪がとても遅くなってしまったと述べた。ボッセ・フーバー氏は、当時の聖職者らが大虐殺を実行した軍と密接に関わりがあったことを指摘。ドイツの国際放送局「ドイチェ・ヴェレ」に対して、「聖職者が直接にそこで(先住民族の)絶滅を呼び掛けたことはありませんでしたが、植民地の入植者と軍の関係はとても緊密だったので、残虐行為に立ち向かうことはできませんでした」と述べた。「ですので、私たちができることは、ただ赦しを求めることなのです」
EKDの謝罪表明は、ルーテル派の世界組織である「ルーテル世界連盟」(LWF)が、5月10〜16日にナミビアの首都ウィントフックで総会を開催する前に行われた。ナミビアは人口の8〜9割がキリスト教徒で、さらにそのうち約半数がルーテル派とされている。一方、第2次世界大戦後に設立したEKDは、ルーテル、改革、合同の各派からなる。
ボッセ・フーバー氏は、今回の謝罪表明に至るまでには、教会の指導者らを説得する必要があったことを認め、今後も両国の教会間で和解と関係改善のための試みが継続されていくだろうと述べた。
しかし、教会が直接的に大虐殺に関わったとする歴史的証拠はないため、教会による賠償は否定。ドイチェ・ヴェレには、「もし私たちが賠償を検討すれば、(歴史の)正直な再評価がいっそう難しくなるでしょう」と語った。
ドイツ軍によるヘレロ族とナマ族に対する大虐殺は1904年1月、ヘレロ族が植民地支配に対する反乱を起こしたことで始まった。反乱への報復として、ヘレロ族はナミブ砂漠に追いやられ、大半はそこで脱水症状により死亡した。その後、ナマ族も反乱を起こしたが、ヘレロ族と同じ運命をたどった。 さらに、何千人ものヘレロ族とナマ族が強制収容所に収容されたり、強制労働に従事させられたりし、多くが病気や極度の疲労で亡くなった。
この大量殺りくは、国連でも1985年、ヘレロ族とナマ族を絶滅させる企てだとする報告書が提出され、20世紀の最初の大虐殺として認識されている。ヘレロ族とナマ族の代表は、賠償金の支払いが繰り返し拒否された後、補償を求めてドイツ政府を提訴。EKDは、ドイツ、ナミビアの両国政府が今後も交渉を継続していくことを求めている。