「キリストのサイン(しるし)を建築に表現」
竣工 1994年10月 所在地 福岡市東区箱崎3-32-3
構造 鉄筋コンクリート造り2階建て
延床面積 430㎡(130坪)
設計者 西村建築設計事務所(代表・西村晴道)
施工者 株式会社藤木工務店福岡支店
箱崎教会は、博多駅から地下鉄で約15分「箱崎九大前」で下車、徒歩1分の便利な地、住宅街にある教会です。隣に学校法人「恵泉幼稚園」があり、教会学校や保護者のサークル活動も活発です。
キリストのサイン(しるし)を建築に表現
米国の建築家E・A・ソヴィックは、キリストの存在を表すサイン(Signs of Christ’s Presence)を建築に表現するために、① 建物、② ドア、③ 光、④ 十字架を挙げています。
教会の建物は、上空から見ると十字架の型になっているもの、ノアの箱舟型のものや、祈りの手の型など、いろいろあります。
ドアは、キリストが戸口に立って招いているドア、光は、世の光である表現として自然の光、ステンドグラスよりの光、ろうそくの光をどのように取り入れるかです。復活を表すイースターキャンドルがあります。
そして、キリストのサインを表現する十字架があります。十字架は2つに分かれ、1つは復活の十字架、もう1つは受難の十字架です。
※ E・A・ソヴィック・・・米国の教会建築の権威、著書に『神の民の家』(徳善義和訳、聖文舎、1969年)や、『Architecture for Worship, Augsburg Publishing House』(1973年)など。東京・三鷹のルーテル学院礼拝堂建設の際、建築家の村野藤吾氏に助言した。筆者は1983年にミネソタの建築事務所でソヴィック氏より教会建築を学んだ。
建物・・・「貝がら=シェル=洗礼」
この一帯は、昔は白砂青松の海岸であり、鎌倉時代中期、蒙古襲来の折に神風が吹き、困難に打ち勝ったという歴史があります。そこで、箱崎教会のコンセプトは、「貝がら=シェル」に決めました。欧州の教会の装飾に貝がらのデザインを見たことがあると思いますが、貝がらは洗礼のサインです。
入り口の屋根を銅板葺きで貝がらのような丸みのある形に、礼拝堂に入るドアには貝がらのモチーフを入れたデザインにしました。
ドア=開かれた教会
教会の正面ドアは内部の雰囲気が分かるよう透明で開放的な入り口にし、外部に向かってオープンに、みんなを招くドアにしました。
礼拝堂内部
聖卓を囲む扇形と十字架
礼拝堂は対角線の隅に聖壇を設け、聖卓を囲む扇形の座席配置にしました。赤ちゃんからお年寄りまでが集い、食事をしながら交わる愛餐会は毎週という教会ですから、聖卓の周りを家族が取り囲む、温かみを感じる礼拝スタイルにしました。
十字架は天井から吊るし、ともに交わる「インマヌエル=神は私たちとともにおられる」を表現しました。
光
祈りの空間に適した光を建築に反映するため、礼拝堂全体が光で包まれるよう、上部からの光を取り入れました。ルターの紋章のステンドグラスからやさしい光が入ります。また、夜は逆に内部からのスポットライトがステンドグラスを照らし、外部からも見えます。
聖卓のろうそくについては長いものでなく、食卓を照らす光として短いろうそくを用いることにしました。
音楽と音響効果
礼拝堂建築に当たっては、「説教と賛美」の2つを両立させる必要があります。牧師の説教は聴きやすく、音楽は美しく響くことを配慮しました。賛美歌はリードオルガンの音色にマッチして美しく響きます。
座席後部の上部壁には、大きな厚手のタペストリー「5つのパンと2匹の魚」が掲げられ、残響音も程よく調整されています。音楽会、ミニコンサートの会場としても音響効果が良いと定評があります。
鉄筋コンクリート造りか、鉄骨造りか、木造か
教会を建てようとするとき、主要構造を何にするかが、予算をにらみながら検討されます。箱崎教会の建築委員会と故白川清牧師は、工事費は高くなってもしっかりしたものを造りたいと鉄筋コンクリートを決断しました。数年前の地震の際、付近の建物に被害があったが、この建物にはヒビも入らず、耐震性が証明されたと聞き、ほっとしました。
教会ができてから何度かともに礼拝する機会を得ましたが、そのたびに教会員の会堂を愛する気持ち、生きたキリストの存在を感じました。
(写真:深町健太郎氏ほか提供)
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