福音派の世界組織である世界福音同盟(WEA)は、一部の言語においては字義的に神を「父」、またイエスを「(息)子」と表記しなくても良いとする、聖書翻訳者たちの判断を支持する考えを示した。
イスラム圏のある一部の言語においては、「父」や「(息)子」という表現を使うことで、イエスの母であるマリアと神の間に性的関係があることを意味してしまう場合があるという。世界各国の聖書翻訳団体が加盟する「世界ウィクリフ同盟」(Wycliffe Global Alliance=WGA)は、こうした場合、神やイエスに対して「父」や「(息)子」という表記は使わないとする決定を下していたが、その決定に反発する動きがあった。
WGAの構成団体の1つであるウィクリフ・アソシエイツ(Wycliffe Associates=WA)は、WGAの決定に反発し、脱退を表明。WAのブルース・スミス会長は、「御父や神の御子に相当する共通語を使った字義通りの聖書翻訳のみ」を断固支持するとコメント。また、「WGAの構成団体の中には、御父や神の御子という文言を含まない聖書翻訳を行っている団体が複数ある」などと述べていた。
WGAと「国際SIL」(キリスト教主義の少数言語発展支援団体)は2012年、こうした批判に応え、問題に対して判断を示す調査委員会の設置をWEAに申し入れていた。
WEAの調査委員会は13年4月に報告書(英語)をまとめ、10の勧告を発表。「(息)子」という字義通りの翻訳が適切ではない、あるいは可能ではないケースがあるかもしれないが、イエスが神の御子であることを示す概念は必要だなどとしていた。
その後WEAは、WGAと国際SILが調査委員会の勧告に従い、「父なる神」や「神の御子」といった神的家族用語(Divine Familial Terms)を適切に翻訳しているかどうかを外部監査するため、専門家らによる「神的家族用語監視団(Divine Familial Terms Oversight Group=DFTOG)」を組織していた。同監視団は14年と15年に会合を開き、昨年12月にはドイツで、WGAと国際SILの指導者らを招いて3度目となる会合を開いていた。
そして今月20日、同監視団は、翻訳のためのガイドライン「神的家族用語翻訳手順(Divine Familial Terms Translation Procedures)」(概要・全文、英語)が、調査委員会によって提示された10の勧告に従っていることを認めると発表した。
福音主義の大学である米ホイートン大学の教授で、同監視団の議長を務めたスコット・モロー氏は、「『神的家族用語翻訳手順』は、正しく適用されるのであれば、2013年4月の調査委員会による勧告の順守を促進するものであることを、WEA監視団は認めます」とコメント。「WEA監視団は、WGAと国際SILが、WEA調査委員会によって定められたガイドラインを順守し続け、現状通り忠実に働きを継続することが妥当であると認定しました」と語った。