三浦綾子の小説『母』を映画化した「母―小林多喜二の母の物語」が10日、いよいよ公開初日を迎えた。すでに、横浜など一部地域で数日前から公開されていたものの、東京都墨田区の江戸東京博物館ホールでは、多喜二役の塩谷瞬さんをはじめ、宮本百合子役のクリスチャン落語家、露のききょうさんらが舞台あいさつに立った。
会場はほぼ満席。「封切り」を待ちわびていた人々の熱気で溢れかえった。
小林多喜二といえば、『蟹工船』などの名作小説を残した小説家であったが、平和で誰もが公平に暮らす時代を願う思いが強かったが故に、時に時代と逆行して生きた彼の生き方は、政府や警察の反感を買ったのだった。
一方、作品中、寺島しのぶさん演ずる多喜二の母セキは、女性が積極的に教育を受けられない時代に育ったが、貧しいながらも温かい家庭を作り、懸命に多喜二ら兄妹を産み育てた。多喜二の死後、娘に導かれ、教会へ。文字が読めないセキであったが、賛美歌を覚え、晩年はそれらを口ずさむこともあった。不条理な死を遂げた多喜二とイエスを重ね合わせ、その母マリアに深い同情を示した。
同作でメガフォンを取ったクリスチャンの山田火砂子監督は、「多喜二が非業の死を遂げたあの時代に逆戻りしては絶対にいけない。私は戦争を経験していますが、あの時代に戻るのは、絶対にダメ」と訴えた。
棒頭役で出演した進藤龍也牧師(「罪人の友」主イエス・キリスト教会)も会場を訪れ、家族や同教会の信徒らと共に映画を鑑賞した。
「素晴らしい映画でした。自分が出てくるシーンはドキドキしましたが、思った通りの悪顔でしたね」と登場シーンの感想を語った。
最初からずっと泣きっぱなしだったという進藤牧師は、「俺は悪いことをして刑務所に入ったわけだけど、多喜二の場合は、平和を願っていたにもかかわらず、時代が時代だったから、警察に捕まって壮絶な最期を迎えたんですよね。だから一緒にはできないけど、獄中の多喜二に会いに行く母の姿は、うちの母ちゃんとも重なって、涙が出ましたね。俺がいくら悪いことをしても、母は『龍也・・・龍也・・・』って待っていてくれましたからね。母の愛は偉大ですね」と話した。
また、セキを信仰に導いた多喜二の妹が小林家の初穂になったことに「神様の完全なる癒やしが小林家に働いたのを感じた」と語った。
上映後には、クリスチャンの出演者、鑑賞者らが集まって、共に祈りをささげた。
映画「母―小林多喜二の母の物語」は、全国の映画館、上映会などを通して公開される。詳しくは、現代ぷろだくしょんのホームページ。
■ 映画「母―小林多喜二の母の物語」予告編