卒業論文や指導グループの学生さんですと、三人組とか五人組とか十人組とか、その他、沢山の印象に残るグループがありました。女性のグループですと渾名ではスケバン(女番長)さんがいたりして、楽しかったですね。――有機化学研究部の方々は皆朗らかで、随分と一緒にピクニックに出かけました。親睦だけで、別にこれという目的もなかったのに、ただひたすら楽しくて沢山の思い出が出来ました。――またワンダーフォーゲルの学生さんとは、一緒に三宅島や木曾路を歩きましたが、顧問といっても何もしない私を、良く支えてくれました。
三宅島の事は今でも良く憶えていますよ。雨が降って、雨戸もない小さな壊れた無人小屋に泊まった時の事、寒いので薪をたいて暖をとり、いざ寝ようということになって、バケツで水をかけて、消えたと思って、そのうえに布をかけて、その真上にシュラーフにくるまって寝ましたね。ところが、その空間の狭い事、上を向いて寝ると皆のスペースが足りなくなるから、私は、少し横に傾き加減に上を向いてぎっしりつまって寝ました。寝られる訳はありませんよ。足を少し延ばしただけで学生さんを蹴飛ばす事になるんですから。それでも良く眠る方がいるんですね。私の場合寝られなかったのは、その時、お尻が暖かくなって来て、段々熱くなって来て、変だなとは思ったんですが、皆さんを起こしては悪いと思って、じっと我慢していました。でも矢張り、とても熱くてとうとう我慢が出来なくなってしまった。皆さんに起きてもらって、下を掘ってみたら、何と火が赤々とついていたんです。危うくお尻に火がついてカチカチ山の狸になるところでしたね。――行く先々で、皆手を繋いで丸い輪を組んで、一生懸命歌を歌いましたね。私もそんな時、教師ということは忘れて、ご一緒に感動して歌いました。――
ところで学生さんは、よく悪戯を致しますですね。つい数日前にも、私は有機化学の宿題を私の教授室に取りに来る学生さんのために、廊下の白板に私の部屋を書いて、線を引っ張って、此処ですと書こうと思ったんですが、それよりももっと判りやすいだろうと考えまして、一本線を引っ張って、片仮名でトントンと書いて置いた。勿論ノックして下さいという意味ですが、学生さんは、早速その上に、リンリンと書き、更にランランからファンファンと書いておまけにパンダちゃんの絵を描いてくれました、ですね。そういう愛すべき学生さん達と毎日を過ごしているものですから、年を取る暇が無く今日に至りました。然し時間だけは過ぎて行く様です。先日も先生方にお話し致しました。残りの日が余りにも少なくならないうちに、可能ならば、歩かないで、走って行きたい。そうして、瞬く間に過ぎて惜しまれる様な時間を、私の心から愛するお方とともに過ごしたいと。また、卒論の学生さんには語りました、「注ぎ出す香油の様に」と。良いものを神様からプレゼントとして、心の中に与えられ、満たされているが、ただそれを、蓋をしたままで終わる事の無い様に、と。夢を語ればきりがありません。