世界の映画人たちに最も尊敬され、アカデミー賞にも輝く巨匠中の巨匠、マーティン・スコセッシ監督が、戦後日本文学の金字塔と称される遠藤周作の小説『沈黙』を映画化した映画「沈黙-サイレンス-」。米映画芸術科学アカデミーが現地時間の24日に発表した、第89回アカデミー賞の候補で、本作の撮影監督を務めたロドリゴ・プリエトが撮影賞にノミネートされた。
スコセッシ監督が原作と出会ってから28年、読んだ瞬間に映画化を希望し、長年にわたって温め続けてきた本作。日米の実力派俳優とスタッフがタッグを組んだ約3時間に及ぶ大作で、特にオーディションで役柄を手にした日本人キャストは、ハリウッド界をもうならせる演技が話題を呼んでいた。
12日に開かれた日本外国特派員協会の記者会見でも、通詞役の浅野忠信が「(アカデミー賞に)選ばれないようなことがあるとしたら、それはおそらく神様が選考委員に余計なことを言ったということだ」と語るほどに、アカデミー賞最有力候補との呼び声が高かっただけに、監督賞や作品賞を逃したのは残念だ。
本作で主人公の宣教師ロドリゴを演じたアンドリュー・ガーフィールドは、メル・ギブソンがメガホンを取った第2次世界大戦の沖縄を舞台にした戦争映画「Hacksaw Ridge(原題)」で主演男優賞にノミネートされており、同作は、作品賞・監督賞・編集賞・音響編集賞・録音賞でも候補に挙がっていることから、今夏の日本での公開に期待が高まる。
惜しくも主要な賞の候補から外れたものの、本作がついに21日に公開された日本では、原作の『沈黙』(新潮文庫)が公開直前に200万部を突破し、アマゾン文庫売れ筋ランキングで1位(25日午後9時現在)に上がるなど、多方面で注目を集めている。
国内最大級の映画レビューサービス「Filmarks(フィルマークス)」(株式会社つみき、東京都目黒区)が、サービス内のデータに基づいて発表した「1月第3週上映スタート映画の初日満足度ランキング」によると、本作は同日公開の他の注目作品を抑えて、満足度第1位だったという。(2017年1月23日現在)
「Filmarks」によれば、本作のMark!数(ユーザーが見た映画としてレビューを登録した数/登録は1作品につき1人1件まで)は1362、★スコア(映画鑑賞後に★の数で評価をしたスコア/5点満点)の平均はなんと4・03という高評価だった。2位は、Mark!数48、★スコア4・02の邦画アニメ「黒執事 Book of the Atlantic」で、3位はMark!数889、★スコア3・69の米映画「ザ・コンサルタント」だった。
レビューの執筆者も性別を問わず年代は幅広い。ある30代男性は「隠れキリシタン・踏み絵、聞いた事ある言葉も、恥ずかしながらこんなに強烈な事が、行われていたとは、思いもしなかった」、20代女性は「日本のこの黒い土の上で生きる限り、その土が赤く染められた時代があった事を忘れてはいけないのだと強く感じた」。
さらに10代男性も「自分は今高校生で、キリシタン弾圧や踏み絵などは中学の日本史でちょこっと習った程度。いくらフィクションとはいえ、教科書の1、2文で語られる事がこんなにも想像を絶する苦痛を隠れキリシタンが受けていたと思うと考えさせられるものがある。ぜひとも若い世代の方にも見ていただきたい」と本作を見た感想を投稿している。
昨年10月と今月、来日して記者会見を開いたスコセッシ監督。単一作品でハリウッドの巨匠が2度の会見を開くのは極めて異例のことで、原作発祥の地である日本への敬意と本作への並々ならぬ情熱は明らか。監督自身も「この映画が日本の文化やキリシタンの勇気を損なうことのないように描いた。忠実に敬意をもって、また、共感と慈悲をもって描こうと力の限りを尽くした」と語っているだけに、1人でも多くの日本人に見てもらうことが、監督にとっては何よりの栄誉になるのかもしれない。