埼玉県川口市にある「罪人の友」主イエス・キリスト教会(通称:罪友、進藤龍也牧師)には、毎週のように新規来会者が訪れる。進藤牧師の著書を読んだという人、インターネットで配信される進藤牧師の説教を見て訪れる人、日本社会の中で生きづらさを感じている人など、来会の理由はさまざまだ。
中には元受刑者が、刑務所から事前連絡なしに教会を訪れることもある。進藤牧師は「何にしても、教会に自分の足で来たということは彼らの『信仰』の芽生えだと思う」と話す。
毎週日曜日の午後2時半から始まる礼拝には、スナックを改造した決して広くない「礼拝堂」に50人近くがひしめき合い、真冬のこの時期でも、部屋の中では扇風機を回すほどの熱気に包まれる。
ひときわ大きな声で熱を込めて歌う賛美歌は「地のちりにひとしかり」。
地のちりにひとしかり 何1つとりえなし
今あるはただ主の 愛に生くるわれぞ
御救いを受けし 罪人にすぎず
されどわれ 人に伝えん
恵み深き イエスを
罪の世を望みなく いくとせか迷いしを
ただきみが愛もて 救いませるわれぞ
幾度となく刑務所に出入りを繰り返し、薬物に溺れ、犯罪を繰り返した人々も多く集う罪友教会。賛美は、この生きにくい社会の中で、悪との戦いに挑みながらも、互いに励ましながら生きていく同胞への「軍歌」のようだった。
進藤牧師が長年祈り求めてきた米国での刑務所伝道奉仕が、昨年末から今年にかけて立て続けに実現している。
前科のある進藤牧師が米国に入国するには、さまざまな困難があった。この1年半ほどの間に3回、米国大使館に足を運び、出所以来、犯罪は犯していないこと、現在は牧師を務めていることなどを幾度も証明しなければならなかった。
「(これまでの犯罪は)自分でやったことだから、しょうがない」と進藤牧師は言う。
教会メンバーの祈りに支えられながら、ようやく手にした米国への入国許可。真っ先に向かったのは、親族や友人も多く住むハワイだった。
11月下旬から渡米。10日間滞在したが、その間に奉仕した説教の数は実に9回。1日に4回の礼拝奉仕をすることもあった。進藤牧師が使命を持って取り組んでいる「刑務所伝道」は、米国でも行われている。
ハワイには、刑務所の他、仮釈放になった受刑者を収容する「パロール(Parole)」という施設がある。日本では、仮釈放になると自宅や身元引受人などの一般宅に帰るが、ハワイでは、このパロールにいる間に、教育を受けたり、就職活動をしたりする。門限などはあるものの、基本的には外出も服装も自由だ。
パロールにいる間、受刑者たちには週2回の礼拝参加が義務付けられているのも大きな特徴だ。「文化背景が違う米国だからこそできること」と進藤牧師は言う。前科のある進藤牧師がこうした施設に入ることも、身分証明書のチェックなどは厳重に行われるものの、大きくとがめられることはないのに対し、日本国内で進藤牧師が訪問できる刑務所は限られている。現在のところ、教誨師(きょうかいし)として奉仕することも許可されていないという。
「過去ばかりを見て判断する日本社会と、過去は過去としてしっかりと受け止め、現在と将来に着眼点を置く米国社会との差ではないか」と進藤牧師は話す。
パロールでの説教は、初めこそ「なんだ? あの日本人は?」と好奇な目で見ていた受刑者たちも、進藤牧師が自らの過去を話し、証(あか)しをしていくと、次第に人が集まり、最後には拍手をもって大歓迎された。礼拝後も、進藤牧師と直接話したいという受刑者が長い列を作って、順番を待っていたという。
「受刑中の話やどんな犯罪を犯したかなど、あまり時間はなかったが通訳を介して話をしました。25年服役したという高齢の男性は、はっきりとした口調で『キリストは生きている』と話して、互いに握手を交わしました。うれしかったね」とその時のことを話した。
1月に入り、今度は米国本土、カリフォルニア州サンロレンゾにある日本人教会での聖会奉仕に出掛けた。200人ほど集まった在米日本人信徒たちを前に、刑務所伝道の実態を語った。中には何百キロも離れたところから、聖会に参加するために教会を訪ねた信徒もいたという。
「全てはイエス様のため。自分のような過去を持っている者でさえ、益としてくださる。2017年もイエス様と共に突っ走っていきたい」と話す。
1月下旬から再びハワイを訪れ、2つの刑務所、2つのパロールを訪問予定だ。「楽しみですか?」と尋ねると、「そうだね。これが俺の使命だと思ってる。ハワイの受刑者たちは、礼拝が義務付けられていることもあって、相当な割合でイエス様を信じて出所するからね。日本とは土台が違うけれど、出所間近の『今度こそやり直すぞ』と意気込む気持ち、俺には分かるんだよね。これは万国共通でしょう。だから、応援したいと思う」と話した。