米国オープン・ドアーズは11日、2017年版の「ワールド・ウォッチ・リスト」を発表した。これは、キリスト教徒への迫害が厳しい上位50カ国をまとめた年次報告書で、今年で25年目になる。それによると、世界のキリスト教徒の12人に1人が迫害に直面。上位21カ国では、在住するキリスト教徒のほぼ全員が「高度」の迫害を受け、その人数は2億1500万人余りに上るという。また、北朝鮮は16年連続で、キリスト教徒への迫害が最も激しい国となった。
「16年は、2億1500万人という信じ難い人数が高度の迫害を受けた最悪の年でした」。米国オープン・ドアーズの会長兼最高責任者(CEO)であるデイビッド・カリー氏は、ワシントンのナショナル・プレス・クラブで行った記者会見でこのように述べた。
カリー氏は、「今日、キリスト教徒の約12人に1人が、キリスト教信仰が違法だったり、禁止されていたり、処罰を受ける地域や文化で暮らしています。これは、繰り返し述べるに値する事実です。今日の世界の大半は、宗教的不寛容という衝撃波に対して口をつぐんでいます」とコメント。「17年版のワールド・ウォッチ・リストが示す情報は、ドナルド・トランプ米次期大統領とその政権にとって、最も複雑で緊急な課題の1つです」と続けた。
17年版のワールド・ウォッチ・リストによると、15年11月1日から16年10月31日までの1年間に、信仰関連の理由で殺害されたキリスト教徒の数は、世界で1207人に上る。
しかしこの数字には、過去16年間、キリスト教徒へ対する迫害の首位国の地位を占めている北朝鮮や、イスラム過激派の脅威にさらされているイラクとシリアにおける死者数は含まれておらず、控えめな見積もりだといえる。また、報告されていない殺害事件も多数あるとみられている。
米国オープン・ドアーズはまた、世界各地で1329軒の教会が襲撃されたり、破壊されたりしたことも報告している。
「ワールド・ウォッチ・リストの上位21カ国では、キリスト教徒の100パーセントが迫害を受けています」「リストにある全ての国において、キリスト教徒は少数派であり、全人口のわずか13パーセントしか占めていません」
キリスト教徒への迫害が厳しい上位21カ国は、上から順に、北朝鮮、ソマリア、アフガニスタン、パキスタン、スーダン、シリア、イラク、イラン、イエメン、エリトリア、リビア、ナイジェリア、モルディブ、サウジアラビア、インド、ウズベキスタン、ベトナム、ケニア、トルクメニスタン、カタール、エジプトとなっている。
<北朝鮮>
北朝鮮では、キリスト教徒は信仰を実践することが禁じられており、聖書を所有するだけで殺害されたり、投獄されたりする恐れがある。金正恩(キム・ジョンウン)政権は、金一族が神の家系であるとするカルト的信念を国民に強要しており、キリスト教信仰を実践したり、朝鮮労働党から離党しようとしたりしたために、数千人のキリスト教徒が殺害されたり、家族全員が拷問のような労働「再教育」収容所に入れられたりしている。
<ソマリア>
カリー氏によると、ソマリアの迫害についてはほとんど報告されていないが、組織化された教会を国内で設立することは許可されておらず、ソマリアの全国民は、自身の信仰いかんにかかわらずイスラム教徒として登録される。
「キリスト教徒の小集団は幾つか存在しますが、彼らの信仰について知る人は誰もいません」「信仰が明るみに出たら、即、死を意味します。裁判も受けられずに処刑されますし、多くの場合、うわさされただけで処刑されます」
<パキスタン>
パキスタンは、キリスト教徒に不向きな国の4番目にランクされており、ワールド・ウォッチ・リストに掲載された国々の中では、最もイスラム教徒の割合が多い国となっている。
パキスタンではキリスト教徒が公然と嘲笑され、個人的な恨みを晴らそうとするイスラム教徒によって、冒涜(ぼうとく)罪で訴えられることが多い。それに加え、誘拐されたり、強姦(ごうかん)されたり、強制的にイスラム教徒との結婚に追い込まれるキリスト教徒の婦女子が大勢いる。また、キリスト教徒のコミュニティーに対する警察の保護が不十分なため、イスラム教徒の迫害者は往々にして刑罰を免れている。
ワールド・ウォッチ・リストは、「キリスト教徒に対して、パキスタンほど総合的な暴力が存在する国はない」としている。
英国パキスタン・キリスト教協会(BPCA)のウィルソン・チョードリー会長は11日、クリスチャンポストに対し、「街は焼き払われ、人々は生きたまま火を付けられ、婦女子はますます、強姦されたり、イスラム教徒との結婚を余儀なくされたりしています。そのような手段で改宗させ、イスラム教徒として天国の特別な地所を手に入れようとしているのです」「政府と司法当局は、キリスト教徒に対する犯罪に刑罰を課していません」と語った。
<イラク・シリア>
イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭により、数十万人のキリスト教徒が住居を追われ、殺害される危機にあることを考慮すれば、イラクやシリアなどの中東諸国で、キリスト教徒が激しく迫害されていることは自明だ。
キリスト教徒が多くいたイラクのニネベ平野では、イラクの有志連合軍が昨年10月に解放作戦を開始するまで、ISのためにキリスト教徒がほとんどいない状態だった。キリスト教徒が帰還しても、保護を保証する対策が取られなければ、絶滅も危惧される深刻な事態となっている。
記者会見に出席したクリス・スミス下院議員(ニュージャージー州選出)は、キリスト教徒が、イラク北部のクルド人自治区や近隣の中東諸国の難民キャンプで苦しみ続けている一方、米政府は迫害されて難民となっているイラク人キリスト教徒の救援に対して、「無断欠席」をしているような状態だと述べた。
スミス氏は最近、クルド人自治区の主要都市アルビルにある米総領事館を訪問した。スミス氏によると、総領事館から車で約10分の所に、何千人ものキリスト教徒が収容されている大規模な難民キャンプがある。
「米政府は、ニネベ平野のモスルを逃れたキリスト教徒たちを助けておらず、人道援助については無断欠席の状態です」とスミス氏。「私は、危険なので行ってはけないと言われていたキャンプに行きました。総領事館の役人や警備員を伴わずにです。そこには、6千人の素晴らしい家族(キリスト教徒)と聖職者らがおり、食料も薬も避難場所さえもなく、肉体的に本当にぎりぎりの状態にある難民たちを助けていました」と語った。
「キリスト教徒が結集して、難民のために約3千万ドル(約34億4千万円)を集めていなかったら、死人や病人が出ていたはずです。難民キャンプは総領事館から車で約10分の所にあるのに、私が行く直前に行った1人を除けば、大使館や総領事館から訪れた人は誰もいませんでした。信じられますか?」
「私はキリスト教徒に対する虐殺について、9件の聴聞会に参加してきました。9件もです。それらの虐殺のために、7万人のキリスト教徒が国連や米政府の助けを受けられないまま、アルビルに取り残されました」
記者会見では、中東と南・中央アジアの宗教少数派に関する米国務省の特別顧問であるノックス・テムズ氏も話をした。テムズ氏は、スミス氏の苦言に応じて、米政府の対応について説明。「(米国務省の)国際宗教自由局がこれまでに取ってきました行動の経緯についてお答え致します。私たちは、ウォルダ大主教(アルビル教区)とアッシリア東方教会の主教の2人のキリスト教指導者と会談し、問題となっている懸念事項についてお伺いました。私たちは、キリスト教徒のコミュニティーに資源を届ける方策について、米国際開発庁と話し合ってきました」とこれまでの経緯を語った。
そして、「ニーズは信じられないほど大きく、資源は十分にない状況にあって、これは私たちが乗り越えなければならない難しい問題でした。これは私たちが強く意識していることで、今後も推移を注視してゆく所存です」と続けた。