世界の映画人たちに最も尊敬され、アカデミー賞にも輝く巨匠中の巨匠、マーティン・スコセッシ監督が、戦後日本文学の金字塔と称される遠藤周作の小説『沈黙』をついに映画化した映画「沈黙-サイレンス-」が21日(土)、ついに公開となる。日本公開直後の24日にはアカデミー賞ノミネートも発表されるが、本作は最有力候補との呼び声も高い。日本公開が目前に迫り期待が高まる中、17日に都内で行われたジャパンプレミアに、監督が「この映画の礎(いしずえ)」と絶賛する日本人キャストの窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、塚本晋也、加瀬亮、小松菜奈がスコセッシ監督と共に登場し、舞台あいさつを行った。
本作でハリウッドに名を残したと言っても過言ではない窪塚をはじめ、オーディションで役柄を手にした日本人キャストらは、まさに各世代の実力派たち。すでに公開された米国では、ハリウッド界をうならせる演技が話題を呼び、キリシタンに弾圧を加える長崎奉行の井上筑後守を演じたイッセーが本作でLA批評家協会助演男優賞次点に挙がるなど、注目を集めている。
この日のジャパンプレミアが本作の日本で最初の一般上映ということで、期待に胸を膨らませた満員の観客は、次々と呼び込まれる日本人キャストを盛大な拍手で迎えた。最後に登場したスコセッシ監督は、「マーティン!」という会場からの掛け声や、日本人キャストらの笑顔の歓迎に、満面の笑みで「アリガト」と何度も繰り返し答えた。
スコセッシ監督は、「長年監督をやっているが、今回ほど体力的にも精神的にもチャレンジングな映画はなかったと言っても過言ではない。私も米キャストたちも、つらいと思うことがたびたびあった」と撮影当時を振り返り、「そんな時でさえ、日本人キャストを見ると、みんな平気そうな顔をしていた。本当に彼らがこの映画の礎になってくれた。映像の編集者も彼らのパフォーマンスを、素晴らしい素晴らしいと絶賛していたし、この映画を見た私の友人や家族、周りの多くの人々からも、日本人キャストへの感想がたくさん寄せられている。彼らなしにはこの映画は完成しなかったし、彼らの頑張り、力、深みを見せてもらったので、2年近く精魂込めて編集して完成させた」と、久しぶりに再会した日本人キャストに惜しみない称賛を贈った。
「僕の役は通訳なので、つらいことは全然なかったですね」と笑いを誘った浅野だが、現場で一番印象に残っているのは、敬虔なキリシタンのモキチが殉教する海の場面の撮影だという。だが、モキチを演じた当の本人の塚本は、「僕は特別な宗教を持ち合わせていないので、自分の中でスコセッシ教を作り上げた。苦行も喜びの1つですよ」と殊勝な様子。それと同時に、「全てをささげて、監督の言うことを全部聞いてなるべく頑張る、という姿勢でやらせてもらった。また、未来の子どもたちを心配に思う気持ちが強くなっているので、子どもたちのために祈る気持ちを合わせることで、モキチを純粋に演じることができた」と役に込めた思いを語った。
本作での演技が海外紙で高く評価されているイッセーは、自身が演じた非常にインパクトのある役どころ、井上筑後守について、「悪役だということで世間では通っている。オーディションから撮影まで幸いにも十分の時間があったので、家で毎日井上を育てた。まるでわが子のように井上が育った。わが子を悪人のように育てる親がどこにいますか。根は優しい子に育ったので、私はそのように演じた。だから、私たちが戦う相手はキリシタンだけではなく世間もそうだった。そんな様子を、監督は優しく温かく見守ってくれた。サンキューベリーマッチ」と、独特の言い回しで表現した。
本作では、見事に再現された17世紀江戸初期の日本も大きな見どころとなっているが、イッセーは、現場でメイクや鬘(かつら)、衣装を担当した日本人スタッフたちが、朝から晩まで泥だらけになりながらも嫌な顔一つせずに頑張っていた様子に触れ、「彼らがいなければこの映画は成り立たなかった」とその労をねぎらった。
モキチと同じく弾圧される側のキリシタン、ジュアンを演じた加瀬は、「特別な宗教を持っていないので、信仰になるものを自分で探しながら演じていた。それはこの映画のテーマでもあるので、映画を見たあとも、皆さんにも感じてもらえたらうれしい」と観客に呼び掛けた。その妻モニカを演じた小松は、撮影当時19歳で初のハリウッド映画出演となったが、「原作は聞き慣れない言葉も多く、難しくて頭に入ってこない部分もあったが、映画を見る若い人たちにどんな気持ちで見てもらえるのか、公開後の反響が楽しみ。1人でも多くの人、特に若い人たちに見てもらいたい作品」と話す。
本作でスコセッシ監督が最も伝えたいことは、「弱さを否定するのではなく、受け入れることの大切さ」だというが、その象徴ともいえる存在、キチジローを演じた窪塚は、監督がいかに日本、遠藤周作、『沈黙』、日本人キャストに敬意を払っているかを熱弁し、監督の才能と人柄を心からたたえた上で、「俺たちは和の国の民、和の心を持っている。この映画が、監督や遠藤の思いが、皆さんのところに届いて、より良い明日が来ることを俺は信じて疑いません。今日、この場所が役者人生で最良の日。そこに立ち会っていただけて本当に幸せ。神は沈黙しているので、自分の心の深奥に入って行って、その答えに触れていただければ」と力強く語った。
スコセッシ監督が原作と出会ってから28年、読んだ瞬間に映画化を希望し、長年にわたり温め続けてきた本作。人間の強さ、弱さとは何か。信じることの意味とは。人間の普遍的なテーマに深く切り込んだ、マーティン・スコセッシ監督の最高傑作にして本年度アカデミー賞最有力作品。混迷の現代に、人間の本質とは何かをあぶり出す、渾身の一作。映画「沈黙-サイレンス-」は、1月21日(土)から全国で公開される。