マーティン・スコセッシ監督が遠藤周作の小説『沈黙』を映像化した映画「沈黙-サイレンス-(原題:Silence)」が、日本でも来年1月に公開される。本作で敬虔なカトリック信徒のモキチを演じた俳優の塚本晋也は1日、長崎市の日本二十六聖人記念館で会見に臨み、本作へかけた思いを語り、「現在生きている監督で、最も尊敬しているスコセッシ監督が日本の原作を映画化するということは“事件”」だとコメントした。
塚本は、自ら主演を務めた監督作「野火」(2015年)が、ミニシアターの公開ながら社会現象化し大ヒットしており、また今夏の大ヒット作「シン・ゴジラ」に出演するなど、その個性的な演技が評判の俳優だ。塚本が演じたモキチは、長崎市の外海地区がモデルとなったトモギ村の敬虔なカトリック信徒。オーディションでモキチ役を射止めた塚本は、出演が決まった09年に訪れて以来、今回が2度目の長崎訪問となった。
10月に来日してキチジロー役の窪塚洋介、通詞役の浅野忠信と共に、都内で開かれた記者会見に出席したスコセッシ監督は、「塚本晋也の大ファン」であることを明らかにしていた。一方の塚本も、「スコセッシ監督は、現在生きている監督で最も尊敬している」と相思相愛の様子。映画「タクシードライバー」(1976年)を見て以来のスコセッシ監督のファンだそうで、塚本がテレビドラマで英語を話す役を演じたことをきっかけに本作のオーディション参加を打診されたときには、即答で「もちろん」と答えたという。
臨んだオーディションでは、実際にスコセッシ監督と台詞の掛け合いをする機会があったが、「この経験があれば受からなくてもいい」と思えるほどの貴重な経験となったそう。スコセッシ監督自身、演技が非常に上手で、まるでジャズのセッションのように自分も名優になったように感じられたという。また、あまり演技指導をせず、その代わりにカットによっては100回くらい、何度も何度も撮ることに大変驚いたという。「役者をすごく信用していて、全て委ねてくれる。極端に言うと『好きにしていいよ』と。役者が出したものを最終的に監督がくみ取って、映画の血肉にしていく」と、スコセッシ監督の演出術を明かした。
高校時代には日本文学を読みあさったというが、あろうことか原作小説『沈黙』は読んでおらず、すぐに書店に行った。「さまざまな側面のある非常に興味深い小説で、今まで気付かなかったのがかなり恥ずかしいと思った」という。遠藤が見つめた長崎について、「まさに隠れキリシタンが生きた場所。遠藤さんの小説では、隠れキリシタンのことを“弱者”、殉教した方を“強者”、棄教してしまうのも1つの“弱者”として描いているが、考えさせられるのは、何が強くて、何が弱いのか、読んでいてそれが分からなくなる」と語った。さらに、「殉教とは、自分がとやかく言えることではなく、その当時、その時を生きた方々の尊厳があったのだと思う」と続け、「隠れの方が弱いのかというと、僕には弱いと思えない。信念を曲げずに、隠れてでも信仰を守ろうとした人々は、自分の考え方に近い」と述べた。
映画「沈黙」は自分にとってどんな作品かと問われると、「激しい弾圧を受けるモキチの殉教シーンの撮影で、万が一、死んでしまってもまあいいか、と思えたほどの映画。それほどの思いで取り組んだ。答えるのは難しいが、一言で言うと最高の映画。スコセッシ監督が日本の原作を映画化するということは“事件”。皆さんも一緒にその“事件”を体感していただきたい」と熱く語った。
映画「沈黙-サイレンス-」は、2017年1月21日(土)に全国で公開される。