7年に1度開催される日本伝道会議(JCE)の第6回目(JCE6)が、9月27日から30日にかけて、神戸コンベンションセンター(兵庫県神戸市)で行われた。今回のテーマは、「再生へのRe-VISION~福音・世界・可能性~」。主講師は、旧約聖書の宣教と倫理の説教者であり教育者のクリストファー・J・H・ライト博士(元ローザンヌ世界宣教運動神学部門長、現ランハムパートナーシップ国際総主事)。日本全国から、主に福音派の教職者をはじめ、信徒も集まり、4日間の参加者は延べ約2100人にも上った。今回から初の試みとして導入された「コイノニア」と呼ばれる少人数グループでのディスカッションを通して、プロジェクトごとに交わりを深めた。
平日開催ではあったものの、福音派の牧師を中心に、教職者だけでなく信徒の参加も数多く、年代・性別も偏りなく幅広い人々が集まった。全国各地の神学校から参加した神学生の姿も多く見られた。
今回のテーマには、東日本大震災から5年、阪神淡路大震災から20年、戦後70年、日本プロテスタント宣教170年、宗教改革から500年の節目を迎える今、▽聖書信仰に根差す者として福音の素晴らしさ、時代と世界の文脈にある自らの姿、これからの可能性を見直そう、▽課題から目をそらすことなくこれまでの歩みを評価し、賜物、働きの機会、協力の態勢、宣教のビジョンを丁寧に見直そうという思いが込められていた。このテーマのもとで4日間、講演やワークショップ、分科会などのプログラムが進められた。
今大会の主講師であるライト博士による講演は4回行われた。通訳は、藤原淳賀牧師。1回目の題目は、「再生へのRe-VISION」。ライト博士は、旧約聖書におけるイスラエルの民の歩みが、現代を生きるクリスチャンの生き方そのものを示しているとして、「クリスチャンはキリストを通して出エジプトの体験をした贖(あがな)われた民であり、祭司として神と世の間に立って神の言葉を語り、他の民とは違う聖なる民となることを神は望んでいる」と語った。
2回目は、「福音をその全体としてRe-VISIONする」。クリスチャンが、イエスの十字架と復活という素晴らしい福音の喜びを世界に伝えるとき、注意すべき点として「自分の個人的な証しではなく、イエスの救いの御業そのものを客観的に伝えなければならない」とライト博士は指摘する。また、全て福音を聞いた者は信仰による神への従順に導かれる、というライト博士は、もちろん行いによって救われるのではないことを前置きした上で、「私たちクリスチャンの人生は神の福音を『飾る』(魅力的に見せる)ものになっているだろうか」と会衆に問い掛けた。
3回目は、「統合的宣教の場所として世界をRe-VISIONする」。日本の教会の状況を、ある意味でバビロン捕囚後のイスラエルと同じではないか、とライト博士は見る。当時エレミヤがイスラエルに語った神の言葉は、今日の日本について語られているかのようだと話した。
エレミヤ書29章11~14節にある将来への約束は、苦痛と嘆きの中にある人々に向かって語られた70年先のことだったが、後にその預言を読んでバビロンが倒れることを知ったダニエルは、まずひざまずいて祈ったと記されている。ライト博士は、「日本の教会もダニエルのように、へりくだって神のミッションへのコミットメントを祈ってほしい。それこそが今、神が私たちに望んでいることではないだろうか」と語った。
そして4回目は、「宣教における一致と希望をRe-VISIONする」。ライト博士は最後に、ローマの信徒への手紙14~15章でパウロが述べた、キリストにある一致と協力について語った。一致と協力は、世界の教会にとって大切なことであると同時に、日本人にも必要なことであるとするライト博士は、分裂を抱えた教会がどうして和解のメッセージを語ることができるだろうか、仮にその教会が宣教をすれば宣教地でも同じく分裂を招いてしまうのではないか、と問う。
これまでの悔い改めを踏まえて、今回の伝道会議で神からのミッションを最優先にする決意を新たにするというのなら、ローマ14~15章を真剣に受け取らなければならない、とライト博士は語り掛け、「互いに愛し、受け入れ、抱きしめるように神の働きに加わっていこう。今日から、日本の教会で和解が前進し、主の平和が一同の上にあるよう祈ります」と祝福の言葉で講演を締めくくった。
今回の伝道会議では新しい試みとして、講演後に必ずコイノニアという、テーブルごとに分かれたグループでのディスカッションや分かち合い、祈り合う時間が持たれた。コイノニアは、「教会開拓」「青年宣教」「ディアスポラ宣教協力」など15のプロジェクトごとに1グループ8人で構成され、4日間を通して同じメンバーで交わりを深めた。教職者も信徒も関係なく、同じ課題に関心のあるメンバーがテーブルを囲み、講演を一方的に聞くだけでなく平等に発言する機会が与えられたことで、新しい仲間との出会いが生まれ、お互いの違いから学び合う、非常に有意義な時となった。
プロジェクト「災害を通して仕える教会」では、「ほくみん」立ち上げメンバーの1人である宣教師や災害支援のNGO団体関係者らなど、実際に災害を通して地域宣教に従事している参加者が多く集まった。「3.11いわて教会ネットワーク」「首都圏ネットワーク」「東海福音フェローシップ」「九州キリスト災害支援センター」など、東日本大震災以前や、またはそれ以降に次々と各地域で立ち上げられているネットワークが、この会議で初めて、地域のつながりから全国の横のつながりへと発展した。
いつどこでも災害の起こる可能性のある国だからこそ、教会がどう支援していくかに日本宣教の切り口がある、という共通理解を分かち合い、「キリストの体としては当然、災害前から教団・教派を超えて広く協力できる体制を作るべき」と、さらなるネットワーク拡大への課題を確認することができた。
一方のコイノニアでは、「このような場所で励まされてビジョンを与えられるが、地域教会の現状は厳しい」といった、少人数であるからこそ可能な赤裸々な本音も聞くことができ、プロジェクト単位でのネットワーク作り、コイノニアでの深い交わりを持つことができたのが大きな収穫だった。また、阪神淡路大震災の被災地である神戸は、災害後の支援に教会が関わっていくことになった始まりの地であることから、会議全体でも被災した牧師が証しするなどして、災害と宣教を重ね合わせて考えることの重要性を共有することができていた。
プロジェクトごとのコイノニアだけでなく、食事の際には、地域別・年代別の交わりを持つことができたのも有意義だった。分科会も異なる内容のものを2つ選ぶことができるなど、参加者一人一人に合わせた参加型のプログラムも用意されており、教職者、信徒の区別なく、全てのクリスチャンが一致してそれぞれの賜物を用いて宣教に携わっていこう、という決意を新たにすることができた会議となった。
次回の第7回日本伝道会議も7年後の開催で、名古屋が候補地であることが発表され、15のプロジェクトはその2023年に向かって始動した。今回の会議に当たっては、議論に役立つ基礎資料となるように、いのちのことば社から『データブック 日本宣教のこれからが見えてくる-キリスト教の30年後を読む』が刊行された。プロテスタント、カトリック、さらに諸宗教のメディア行政機関の統計データがまとめられた1冊で、会議終了後も全国のキリスト教書店などで購入することができる。