今年で17回目を迎える「川口聖句書道展」が10日から12日までの3日間、埼玉・川口リリアギャラリーで開催された。今年も選りすぐりの書約70点が会場に集められ、訪れた人々の目を魅了し、聖書の言葉を伝えていた。初日は祝日だったこともあり、約120人が会場を訪れた。
主催した聖句書道センター川口聖句書道会の中澤文子さんは「『読んで味わう書道展なのですね』とよく言われます。一般の書展はあちこちで開催されますが、中には行書体などもあり、一般の方々には読みにくいものもあります。しかし、この書展は、一つ一つ読むことができるので、皆さん、書の前に立って、ゆっくりご覧になっています」と話す。
聖句書道は「祈って書く、祈って書く」の繰り返しだと中澤さんは言う。聖句書道展は、全国各地で行われており、その一つ一つの書に証しがある。書く御言葉は、書き手が決める。書き手は、初心者から数十年のキャリアがある師範クラスまでさまざま。教団教派も問わないため、自由に自身の信仰を書に表すことができる。
書だけを教会などに習いに来ている未信徒の作品も少数、展示の中に含まれている。中には、聖句の意味を話すと、興味を覚える書き手もいるのだという。
今春、命に関わる大きな病気が脳に見つかったという中澤さん。医師からは「手術は難しい」と言われていた。母を同じく脳の病で亡くしているため、嫌な予感がよぎった。「死」を意識した瞬間だった。
しかし、中澤さんは「もし、ここでこの世の務めを全うして肉体が終わりを告げても、私はあの麗しい天国に行けるのだから、何も怖がることはない。これから闘病することになっても、『父なる神様』が私のそばにいつもいてくださる恵みに気が付き、恐怖よりもクリスチャンでいることの喜びを感じた」という。
それでも時々、不安や恐怖に苛(さいな)まれ、自然と涙が出てきたり、動悸(どうき)がして眠れなくなったりすることもあった。ある夜、聖書を開くと、目に飛び込んできた御言葉があった。
「シオンよ、恐れるな。気力を失うな。あなたの神、主は、あなたのただ中におられる。救いの勇士だ。主は喜びをもってあなたのことを楽しみ、その愛によって安らぎを与える」(ゼパニヤ3:16、17)
その2カ月後、大学病院でより詳細な精密検査を受けると、驚くことにその病が癒やされていた。中澤さんは「病気をしても、恐れることなく主により頼むことができたのは、大きな恵みでした。今回の書展では、このゼパニヤからの御言葉を書くことに決め、何度も練習しながら、自分自身がこの御言葉と再び向き合うことになりました。聖句書道はこのように、書き手が御言葉と一対一で向き合う時間なのだと思います」と話した。
また、昨年、夫を天に送ったという同会メンバーは、葬儀の際に牧師から伝えられた聖句を今回の書展用に書いた。
「神のなさることは、時にかなって美しい。泣くに時があり、笑うに時があり、悲しむに時があり、踊るに時があり」(コヘレトの言葉3:11、4)
夫を天に送って1年。まだまだ寂しさを感じるときもあるが、御言葉を書きながら少しずつ癒やされているという。
展示作品は、掛け軸、色紙、はがき、また、半紙に書いた書に台紙をつけたものなどさまざま。中には「聖句写教」と呼ばれる、仏教の「写経」のように聖書の言葉を書き写す作品もあった。「写経をすると心が落ち着くといいますが、『聖句写教』は読みながらその言葉を味わって心に落とし込むことができるので、好む人が多い」という。
また、恒例の「体験コーナー」では、日頃習っている人から、筆を持つのは数十年ぶりといった人まで書道を体験できる。書いた作品は台紙に貼られ、周りをシールなどでデコレーションしたものを「お土産」として持ち帰ることができる。
初日の10日には、子どもや家族連れを中心に30人ほどが参加した。担当者は「毎年これを楽しみにいらっしゃる方もいますよ」と教えてくれた。また「書きながら、多くの人が証しをしてくれるので、それを聞くのも楽しみです」と話した。
中学時代の同級生を訪ねてこの日会場に来たという80代の女性は、これまでの70年間の友情を書にしたため、プレゼントしていた。「私たちが青春時代を過ごしていたのは、戦中、戦後。死に物狂いで戦火から逃げ回って終戦を迎えた。今こうして2人元気に時々会って話をしたり、食事をしたりするのが夢のよう。今が一番いい時かしらね」と、お互い顔を見合わせながら笑顔を見せた。
次回の書道展は、東京で開催される。
<聖句書道東京展>
日時:11月9日(水)~12日(土)
9日13:00~17:00、10・11日10:00~17:00、12日10:00~15:00 ※体験コーナーは、12日のみ
場所:小津和紙ギャラリー
東京都中央区日本橋本町3-6-2 小津和紙本館ビル2階