国と東京電力に対し原発事故の責任を問う「福島原発被害東京訴訟」の第19回期日が14日、東京地方裁判所13号法廷で開かれた。原告を応援するため、カトリック信徒を含む70人以上が駆け付け、法廷終了後は、弁護士会館で報告集会が持たれた。
同裁判は、2011年3月11日に発生した東京電力福島第一原発事故によって、福島県内から東京都内に避難を余儀なくされた住民が、国と東京電力を相手に損害賠償請求訴訟を東京地裁に起こしたもの。19回目となる今回の裁判では、原告ら訴訟代理人の内田耕司弁護士が、低線量被ばくが健康に及ぼす影響についての意見陳述を行った。
これまで原告側は、低線量被ばくが健康に及ぼす影響を合計7通の準備書面で詳細に主張してきた。低線量被ばくが危険なものであることを前提として、原告らによる避難行動は低線量被ばくを回避するためのものとして合理的であること、さらに、避難行動を選択しなかった原告らにとって、これまでの居住地での生活における低線量被ばくによる被害は、重大な問題となっていることを主張してきた。
被告である東電側では、低線量被ばくは健康に問題ないとあくまで主張し、原告側が挙げた事例についても「権威のある世界では認められていない」と突っぱねてきた。それに対して今回の意見陳述では、放射線医学総合研究所(放医研)元主任研究官で医学博士の崎山比早子氏の意見書を通してそのリスクについて語った。さらに、世界各地に存在する核物質取り扱い施設および周辺住民に関する各種の調査を紹介した。
その上で、原告らにとって、放射性物質による深刻な汚染に直面する福島県内からの避難行動は合理性的かつ切実なものであり、その精神的損害は極めて重大なものであること、また原告らのうち、やむを得ず残ることを選択した者にとっても、その地にとどまり続けることによって被ることになった精神的損害は甚大であり、決して許されないと主張した。
この日の裁判は、原告側の意見陳述のみであったため、約20分ほどで閉廷した。意見陳述を行った内田弁護士は、裁判の後に行われた報告会で、低線量被ばくを何のために問題とするかについて、「この裁判は『被ばくしたことで明らかにこんな病気になりました』という裁判ではありません。故郷を泣く泣く後にしたことを根拠付けるものがないと裁判にはなりません」と言い、その「根拠付けるもの」として「被ばく」を挙げた。
「被ばく」を根拠付ける1つの柱が、今回意見陳述で述べた「低線量被ばく」が人体にもたらす大きな影響だと話す。内田弁護士は、健康はかけがえのないものだと言い、「生命・身体に関する権利というものは絶対にゆずれない。もしそれが奪われるのであれば、それは人権侵害となる。この人権侵害が『被ばく』によってもたらされている」と力を込めた。
内田弁護士はこの日の裁判の意義について、線量が低いのは確かなことだという事実を伝えた上で、低線量被ばくがどういうものなのか、どういう研究が積み重ねられてきているのか、権威ある崎山氏の意見書によって明らかにしたことだと話した。
裁判では19回にわたり、書面の確認および意見陳述が行われてきたが、次回からは証拠調べや尋問などが3回にわたり行われ、裁判もいよいよ大詰めとなる。原告側からは、避難住民のほぼ全員となる17世帯が法廷に立つ。次回の裁判は11月9日(水)で、5世帯6人の尋問が予定されている。「なぜ避難しているのか、なぜ帰れないのか、5年間大変だったことも含めてしっかり語ることができるよう弁護士と綿密な打ち合わせをして臨む」と意気込みを見せた。
同裁判を支援するカトリック信徒らによるボランティア団体「きらきら星ネット」のメンバーは、裁判開始の30分前から地裁の前で、道行く人にチラシを配布し、裁判をアピールするとともに、傍聴を呼び掛けた。今後も、多くの人にこの裁判について関心を持ってもらうため、傍聴を呼び掛けていくという。
きらきら星ネットは、福島第一原発事故による広域避難世帯の支援もこの間ずっと続けてきた。現在は、避難用住宅の提供が来年3月で打ち切られることを受け、「福島原発避難者の追い出しをさせない」緊急アクションとして、毎週水曜日正午から有楽町マリオン前で街頭署名活動を行っている。