福井県内で昨年3月、教え子である東邦大学(千葉県)の大学院生、菅原みわさん=当時(25)=を絞殺した福井大学大学院の元特命准教授、前園泰徳被告(44)=同県勝山市=の裁判員裁判の初公判が12日、福井地裁であった。前園被告は、菅原さんと不倫関係にあったことや、殺害したことは認めた上で、菅原さんから「殺してください、もう無理です」と頼まれ絞殺したとして、嘱託殺人を主張した。福井新聞などが伝えた。
同紙によると、前園被告は昨年3月12日、福井県勝山市内に止めた車の中で、菅原さんの首を腕で締めて窒息死させた。事件当日、菅原さんは前園被告に対し、「妻子を殺してでも(前園被告を)手に入れたい」「マスコミに流す」「これから火を付ける」などと、無料通信アプリ「LINE」や電話で伝えていたという。
そのため検察側は、前園被告が、家族への危害や不倫関係の暴露に対して危機感を持っていたとして、前園被告に殺害する動機があったとし、殺人罪の適用を主張。さらに、交通事故を装って自身の妻に虚偽の110番通報をさせたり、ドライブレコーダーの入ったカードや菅原さんの携帯電話をトイレに流すなど、証拠隠滅を図ったなどと指摘した。
これに対して、弁護側は不倫関係にあったことは認めた上で、菅原さんが境界性パーソナリティ障害だったと主張。前園被告はこれまでも、何度も菅原さんの自殺を止めてきたが、「殺してください、もう無理です」と何度も頼まれたため、仕方なく菅原さんの望みを受け入れたとし、嘱託殺人罪の適用を主張した。日本経済新聞によると、弁護側は、菅原さんの研究を支援していた東邦大学の職員が辞職したため、菅原さんが精神的に不安定なっていたことを強調したという。
殺人罪の場合、科される刑は「死刑または無期、もしくは5年以上の懲役」と定められているが、被害者からの依頼に応じて殺害した場合に適用される嘱託殺人罪の場合は「6月以上7年以下の懲役または禁錮」と定められており、刑の重さが大きく異なる。
この事件では、検察側は昨年4月に前園被告を起訴したが、弁護側と主張が対立。中日新聞によると、争点などを整理する「公判前整理手続き」が昨年7月〜今月8日に計15回行われ、初公判が起訴から1年以上たった後になったという。前園被告は菅原さんの殺害自体は認めているため、同紙は「公判前の手続きで主な争点は『真意に基づく殺害嘱託の有無』に絞り込まれた。菅原さんが本心から殺害を依頼したのかが焦点となる」と伝えている。
同紙によると、裁判のスケジュールは今後、14〜16日に証人尋問や被告人質問、20日に検察側の論告求刑と弁護側の最終弁論、29日に判決となっている。前園被告の元妻ら計7人が証人として出廷し、菅原さんの両親は被害者参加制度を利用して公判に参加するという。
前園被告は、赤トンボの研究で有名で、菅原さんは14年4月に勝山市に転居し、同市内で前園被告と赤トンボの生態について共同で研究を行っていた。