1980年代に日本聖公会京都教区の牧師が複数の子どもに対して性暴力を行っていた「京都事件」をめぐり、同教区の司祭3人、信徒3人の計6人からなる常置委員会が、同教区の高地敬主教に対し、二次加害を行っていたことや十分な対応を行っていないことを理由に、5月6日付で辞職を勧告する文書を提出していたことが、18日までに分かった。
日本聖公会の牧師による性的虐待事件「京都事件」
京都事件は、日本聖公会京都教区の原田文雄牧師が、教会に通っていた女性が小学校4年から中学生だった1980年代の数年間にわたり、性的虐待を行っていた事件。女性が2001年に、PTSDや精神的不安をこうむったとして慰謝料を求め、奈良地裁に提訴した。
1審では原告敗訴となったが、2005年3月の大阪高裁判決では、牧師の性的虐待によって女性がPTSDに罹患(りかん)したことなどを認め、「被告が牧師として女性から尊敬されていることを奇貨として、女性が小学校4年から中学校を卒業するまでの長期間にわたって、教育的な意味を持った行為であると偽って、自らの性欲のはけ口として性的虐待を加えたという極めて陰湿かつ悪質な事案である」「女性はこれにより、貴重な青春時代を犠牲にさせられ、PTSDに罹患し長年にわたって精神的に苦しんできており、甚大な精神的苦痛をこうむった」として慰謝料500万円の賠償を命じた。
被告側は最高裁に上告していたが同年7月に棄却され、原告勝訴で確定した。
その後、原田牧師がこのほかにも複数の女性に性的虐待を行っていたことが明らかになり、2010年に管区審判廷(日本聖公会の教会内の裁判制度)により終身停職処分が下されている。
今回の辞職勧告では、この京都事件をめぐり、高地敬主教が教区主教として被害者に対して二次加害を行ったことや、その後も十分な対応をしなかったことを理由として挙げ「日本聖公会京都教区常置委員会は、貴師に対し、以下の事由により、日本聖公会京都教区主教の職を辞することをお勧めいたします」としている。
教区常置委員会は、『日本聖公会法憲法規』(日本聖公会管区事務所発行)によると、日本聖公会の全国各教区に、教区主教を補佐するために設置されている。
第121条(常置委員会の組織)
教区に常置委員会を置く。
2 常置委員会は、現任の司祭と執事のうちより3人および成年の現在受聖餐者3人で組織する。第122条(常置委員・常置委員長等の選挙)
常置委員は、毎年1回、定期教区会において選挙する。第125条(常置委員会の決議の発効)
常置委員会の決議は、教区主教の承認によって効力を生じる。(『日本聖公会法憲法規』より)
辞職勧告は、「日本聖公会京都教区常置委員会委員長」名で、「送付の理由書」と「これまでの経緯」という文書と合わせて、日本聖公会京都教区の各教会、各教役者、各教区会信徒代議員、各教区主教、各教区常置委員会、管区事務所総主事宛てに送付されている。
送付の理由を記した文書は次の通り。
高地主教は教区およびご自身の二次加害の責任を明確にしようとされず、被害者側にぬぐいがたい不信感を与えてしまわれました。京都事件をめぐって教区内外には混乱と不信が広がり、被害を受けた方々に届く謝罪の実現に向けた有効な手立てが取れないまま今日に至っています。このことは、被害を受けた方々に苦しみを強い続けていることにほかなりません。
このような教区の現実は福音宣教を託されたキリスト教会としてあるまじきものであり、そのようなあり方を打開できないできた私たちは、常置委員会としての責任を感じ、自らを深く恥じ、懺悔するものです。
常置委員会は、高地主教のもとでは被害を受けた方々の癒しと回復の道を見出すことはできず、京都教区の混乱も収束せず、これ以上事態を引き延ばすことは許されないと判断し、このたび苦渋の決断をするに至ったものです。
常置委員会としての意志を内外に公表するため、送付いたします。
以上の文書をお読みいただいて、被害を受けた方々の癒しと回復のために、また京都教区のためにもお祈りくださいますようお願いいたします。
辞職勧告は次の通り。
辞職勧告
日本聖公会京都教区主教
主教 ステパノ高地 敬 様2016年5月6日
日本聖公会京都教区常置委員会
常置委員長 司祭 ヨハネ井田 泉主の平和
日本聖公会京都教区常置委員会は、貴師に対し、以下の事由により、日本聖公会京都教区主教の職を辞することをお勧めいたします。事由
「京都事件」(元牧師による性暴力事件、教区による二次加害事件)において、
1. 貴師ご自身が二次加害を行ったこと。
その事例は以下のとおりです。
*2005年8月26日、最高裁判決公表時に、判決に対して抗議のコメントを指示し、被害を受けた方や関係者を傷つけたこと。
*2003年の教区主教就任時から2005年までの間に、被害を受けた方から十分な聞き取り調査を行わないなど、教区主教として為すべき務めを果たさなかったこと。
*2005年最高裁判決以降の「京都事件」に関する対応が不備不誠実であったこと。そのため、被害を受けた方や関係者をさらに傷つけたこと。2. 教区主教としての責任を果たし得ていないこと。
2005年の最高裁判決への抗議コメント撤回の後も、教区として被害を受けた方々に届く謝罪を実現できず、被害を受けた方々の苦しみを長引かせ、教区内外を混乱させたこと。
本来、主教様を補佐すべき常置委員会としてこのような勧告を行うことを、まことに心苦しく存じます。しかし教区会閉会中「教区施政に参与する」(法憲第10条)との常置委員会としての責任からの決断であることを申し添えます。