相模原市の知的障がい者施設「津久井やまゆり園」で入所者が刃物で刺されて19人が死亡、27人が重軽傷を負った事件を受け、福祉教育に力を注ぐルーテル学院大学の江藤直純学長が1日、同大ホームページにコメントを発表した。
江藤学長はコメントの冒頭で、今回の事件のあまりの悲惨な状況に言葉もなく、身も心も凍りつく体験をしたことを明かし、「これを読んで下さっている多くの皆様も同じ思いをされたのではないでしょうか」と語り掛けた。
そして、どんなに重度な障がいであっても、その人なりに幸せに生きる権利があることを伝え、「その生命は創造主によって創られ、愛されているゆえに限りなく尊く、価値あるものだと私たちは信じています。ですから、誰にも、他人の生命の価値を云々する資格はありません」と話した。
さらに、「生まれつきに、あるいは人生の途上で、ある人はたまたま知的障害者になり、ある人はたまたま知的障害者にならなかったのです」と、誰でも障がい者になる可能性があり、他人事としてではなく自分の問題として事件について考えてほしいと訴えた。
また、障がい者を標的としたことについて「自己主張ができないというハンディを持つ知的障害者を、自分勝手で自己中心的な価値観で抹殺しようとする暴挙を福祉教育の一端を担う者として私たちは許すことができません」と怒りをにじませ、「私たちは、絶対者の前で皆平等な存在です。本学で教育を終えた卒業生の皆さんもきっと同じ思いだと思います」と話した。
さらに、この事件で尊い命を奪われた人たちの無念を思い、残された遺族や、事件で心身に傷を負った人たちとその家族、さらに施設の職員のそれぞれのやり切れない気持ちに寄り添いたいと述べ、「私たちは、これまでもこれからも、どのような状況に置かれた人であっても、その生命を脅かす存在を許すことはできません」と強調した。
コメントの最後では、「本学は、全ての人が与えられた生命を大切にする社会を築くことを願い求め、そのために貢献することを願う人材をこれからも育て続けたいと思います」とし、「このような悲しみの時だからこそ、闇の力に負けずに共に希望の光を掲げていきましょう」と結んだ。
今回、ホームページにコメントを発表したことについて江藤学長は、「事件の犠牲者とその家族に寄り添う気持ちを伝えたかったからです」と語った。また、加害者の考え方を「特殊」だとしながらも、内心では共感するような社会に恐れを抱いていることも明かした。「『役に立たない人は排除したほうがいい』といった考え方自体が決して許されないことだと声を大にして伝えたかった」とその胸中を述べた。
自分の目から見たら「役に立たない命」を「排除する」という風潮は国内のみならず、中東や米大統領選の中やヨーロッパでの移民排除など世界中で見られると指摘し、「役に立たない命などありません。人間の命は神様が創造したもので、それらは全て愛されています」と力を込めた。その上で、「悲惨の行動だけでなく、行動の根っこにあるものをきちんと解決していかなくてはいけないと思っています。福祉教育を担うキリスト教主義の大学の役割です」と話した。
ルーテル学院大学は1976年から福祉教育を開始し、現在は、学部と大学院博士後期課程まで一貫して現場実践を大切にする教育と研究に取り組んできた。同大で社会福祉を専門的に学んだ多くの卒業生は、知的障がい者福祉を含む全国の社会福祉の分野で、事業の責任者として、中堅スタッフとして、新進気鋭の職員として活躍している。今回のコメントの中で江藤学長は、「(卒業生を)私たちは誇りに思っています」と語った。