小学1年生から高校生の男女で構成される総勢50人の音楽グループ「エバーグリーン・クワイアー」。東京都稲城市、世田谷区の「もみの木保育園」(社会福祉法人聖愛学舎)が拠点となって1999年にスタートした。
最初は、数人から始まった保育園のプログラムではあったが、多くのメンバーが参加し、今では日本各地、海外でもコンサートを公演する子どもゴスペルクワイアとして活躍している。子どもの持つ可能性、魅力がこのクワイアの大きな特徴とされるように、歌詞から伝わる言葉が大人に大きな感動を与えている。普段はごく普通の小学生や中高生のメンバーたちも、保育園時代に学んだ聖書の精神がきちんと心に根付いているのだ。
拠点としている「もみの木保育園」はキリスト教精神を重んじる保育園で、園内には聖書のメッセージが至る所に掲げてある。この日のコンサートは第1部と第2部に分かれて公演。2部とも満席となり、合計で300人以上が会場に足を運んでいた。
閉会後、コンサートを聞いた男性は「いや~良かったですよ」と感想を述べた。「どんどん上手になりますね」とうれしそうに目を細める女性も。「感動しました」と笑顔で帰る人もいた。子どもたちは、会場を後にする観客たちを笑顔で見送っていた。
メンバー紹介
本日の出演では最年長となる内野杏梨(うちの・あんり)さん。中学2年生だ。もみの木保育園の卒園生で小さな頃から歌が大好き。歌いながら育ったというベテランメンバーの1人だ。「舞台に上がると心が無になれるのです」、笑顔でそう語る彼女はステージでソロもこなし、お姉さん的存在だ。夢はより上を目指して頑張ることと話してくれた。
小学3年生の鳴川聖音(なるかわ・まさと)君。恥ずかしがり屋だが、本当はとても明るく活発な男の子。皆に話したいことがあり、一生懸命考えてきたという。「みんなが元気になる歌を歌いたいです」。男の子のメンバーは少ないそうで期待の星だ。当日はお母さんも保護者スタッフとして会場の進行をサポートしていた。まさに親子共演だ。
仲村瑠琉(なかむら・るる)さん。小学2年生。去年からメンバーに加わったそうだ。「保育園から歌が好きだからです」「緊張している気持ちです」「リードが全部歌えるようになりたいです」。自分で書いたノートを見せてくれた。小さな子どもが伝えられるものとは、感動なのではないかと感じる瞬間であった。(※写真は保護者の方の同意を得た上で掲載しています。)
全員が1つになって作り上げるコンサート
公演が終わると、すぐに片付けタイムに入る。誰に言われることなく出演した子どもたちは、テキパキと器材を片付け始めた。「片付けが終わらないと帰れないことを知っている」と、ある保護者は苦笑いしながら話してくれたが、子どもたちの親も全員参加で掃除や後片付けに協力をする。実はエバーグリーン・クワイアーの特徴の1つだ。
エバーグリーン・クワイアーの始まり
もみの木保育園はキリスト教主義の保育園で、プログラムに礼拝がある。ある日、同園に勤める保育士から「礼拝の時間がちょっとつまらない」と相談を受けたそうだ。そこで園長である物井洋介氏は、礼拝の時間に子どもたちが喜んで踊ったり、リズムに乗れるようなゴスペルを導入。クリスマスのイベントには卒園児たちが訪れるので歌いたい人を募集したところ、予想以上にたくさんの子どもたちが集まったそうだ。
エバーグリーン・クワイアーディレクター物井洋介氏 活動への思い
エバーグリーン・クワイアーは東京都稲城市と世田谷区にある同保育園を拠点に活動している子どものゴスペル聖歌隊だ。ディレクターで同園の園長を務める物井氏によれば、この活動は、この瞬間しか伝えられないものがあると話す。
有名なアーティストやプロの団体は他にもいるが、子どもの持つ声、仕草はこの時だけのもの。この子たちから聴く人へ感動を伝えたいと思いを語る。
物井氏は、「子ども出演と聞くと『子ども向けのコンサート』とイメージされる方が多いのですが、実際は大人の方にも聴いてほしいです」と語る。
大切にしていることは、「愛」を中心とした聖書のテーマ。シンプルでかつ誰の心にも響く内容だ。当日のコンサートも、本当に心に響く歌詞ばかりだった。
50曲以上あるオリジナルソングだが、全て作詞作曲は物井氏が手掛けている。週に1度のペースで保育園に集まってレッスンをしている。その演出などの指導も物井氏が行っているそうだ。
現在までに4枚のアルバムをリリース。教会や福祉施設、イベントに出演。オリジナルミュージカル「GIFT」も国内で公演した。海外でも2009年に米国のワシントンとオレゴン。翌年は韓国でもコンサートを行った。
今から4年前の夏にはオーストラリアでも公演。2016年には世田谷にある「もみの木保育園」を拠点とした「エバーグリーン・クワイアー世田谷」を発足。メンバーは総勢50人だ。最も多かった時期は80人近くいたそうだ。
このように集まったメンバーは毎週練習を重ねている。その歌の技術、演出もとても魅力的だ。スクリーンに映される歌詞は日本語だけでなく、英語と韓国語でも紹介。これは各国で公演をした際に作ったものだ。物井氏は海外の方にも会場で一緒に楽しんでほしいと語る。
海外では何語で歌ったのかという問いに「アメリカ公演は日本語で歌いました。やはり、日本語が持つニュアンスを英語訳で歌うのは難しい」。それでも、大変好評だったそうで、歌は万国共通だと感じたそうだ。
「私たちは教会のグループではないので、誰が聞いても分かる聖書の言葉をなるべく分かりやすく伝えています」「まずは入り口を作ることかなと思います」。伝えたいことは聖書の福音と愛。実際の歌詞にもたくさんこの言葉は登場する。
「あまり難しい教会用語だと初めて聞く人は引いてしまいますよね。実際はクリスチャンではない方ばかりですから、感動を共感していくこと」「ここの子どもたちにはこの演奏を聴いてなじんでもらい、良いことを継承していくように心掛けている」と話す。
「メンバーは全員がクリスチャンではない。でも、出演する子どもたちから親も自然に受け入れています」。コンサートでは、さまざまなエピソードを交えてトークもこなす。命の大切さ、思いやり、聖書が語る愛についてのメッセージも自然と心に響いてくる。
もみの木保育園の歴史は、1955年に立川の米軍基地の町で、リリアン・ハート氏というクリスチャンの夫人が米軍ハウスで日曜学校を行っていたことにさかのぼる。物井氏は「父親がここで、『隣人を愛しなさい』『家に招きなさい』という教えを聞いてお手伝いを始めました」と言う。
実際に米軍テントを借りてスタートした。今は東京の世田谷と稲城市の若葉台と長峰の3カ所で経営をしている。1つの保育園に125人の児童が通う。
家族がキリスト教を信仰しているクリスチャンファミリーで生まれ育った物井氏だが、教会には行ったり行かなかったりする時期があったという。洗礼は18年目に受けたが、なかなか自分のこととして信じることが難しかったと話す。
母親は熱心なクリスチャンだが、神様は母親にはいいことをしてくれるのだろうな、程度だったという。ある時に、神様は自分のことを愛しているのだなと知ることができた。
自分たちで作った賛美で福音を伝えたいし、歌っている子どもの中に神様がいてくださることに喜びを感じるという。「音楽は小さな子から、それこそ赤ちゃんからお年寄りまで皆が1つの物を共有することができます。赤ちゃんもサウンドを分かるのです。ハーモニーの感覚、リズムを持っています。あらゆる世代に聴いてほしいですね」と温かな笑顔で語ってくれた。
今、エバーグリーン・クワイアーの活動は注目されている。笑顔で歌う子どもたちに出会ったとき、聴いている一人一人が幸せになれると感じる瞬間だった。今後も応援していきたい。