広島・長崎の原爆投下から71年目を迎えるこの夏。それを前に、クリスチャンである英国のテリーザ・メイ首相は7月18日、英国議会の下院で、核攻撃を許可する用意があると明言したと、英国の主要メディアが一斉に報じた。一方、英クリスチャントゥデイは同月15日、英国の教会指導者たちが一致して、同国が保有する核兵器の更新に反対していると報じていた。
18日に行われたその更新に関する同下院での討論で、「彼女(メイ首相)自身としては、10万人の罪のない男女や子どもたちを殺すことができる核攻撃を許可する用意があるのか?」とスコットランド民族党(SNP)のジョージ・ケレバン議員が質問すると、同首相は「イエス(はい)」とはっきりと答え、「抑止で肝心なことは、われわれがそれを使う用意があることをわれわれの敵に思い知らせる必要があるということだ」と付け加えた(ユーチューブに関連する英語の動画が多数あり)。
同首相はその後、核のない世界に向けた多国間の取り組みに英国が主導的な役割を担う責任があるとしつつも、一方的に軍備撤廃をすれば同国の60年間の抑止が取り除かれてしまい、また核兵器の使用の可能性が低下することにもならないと述べ、英国の安全保障のために妥協してはならないなどと主張した。
そして、「われわれは筋違いの理想主義から自らの究極的な安全を放棄してはいけない。それは無謀な賭け事であろう」とメイ首相は述べた。
その上で同首相は、「われわれの次世代の核抑止を築くことを進める時だ。われわれの社会に対して最も極端な脅威を抑止し、来るべき世代のためにわれわれの生活様式を保つために、この不可欠な決定をする時だ」と語り、核弾道ミサイル「トライデント」搭載の原子力潜水艦の更新を主張した。
7月12日付の英クリスチャントゥデイは、メイ首相が英国の与党である保守党の党首と同国の首相に選ばれた後、「テリーザ・メイ:イングランド中部の中心出身である物静かなクリスチャン」という見出しの記事を掲載した。その中で同紙は、メイ首相が英国国教会の聖マリア教会(ロンドンから北西方向にあるオックスフォードシャー州)で副牧師の父親に育てられ、夫と結婚したクリスチャンであり、国会議員になる前の1997年からできる限り毎週日曜日に、ロンドンから西方の郊外にあるソニングという村にある英国国教会の聖アンデレ教会(バークシャー州)に出席していること、そしてメイ首相の信仰が政治にどういう影響を及ぼしているかなどを伝えた。しかし、そこには英国の核兵器や平和に関する記述はない。
一方、7月15日付の英クリスチャントゥデイによれば、英国の教会指導者たちは18日の英下院での討論を前に、英国の核兵器の更新に一致して反対を表していたという。
それによると、英国国教会やスコットランド教会、カトリック教会、バプテスト同盟、メソジスト教会、合同改革派教会、クエーカーの代表者らがみな、「核兵器に反対する叫び声を鳴り響かせた」という。
「7月18日の投票は、核ミサイルを搭載できる4隻のバンガード潜水艦の交代を国会議員たちに承認させることになるだろう。それらはスコットランド西部のクライド(海軍基地)を基地にしており、そして1つの潜水艦は常に哨戒中で『継続的な海中の抑止』を維持している。全部を交代させるには20年を必要とし、費用は少なくとも310億ポンド(約4兆1850億円)はかかるだろう」と、同紙は説明した。
その記事を書いた同紙のハリー・ファーリー記者は、「一部の個人は異議を唱えたものの、トライデントについては英国にある教会が教派を超えて意見が一致している分野の1つのように見える」と記し、「スコットランドの8人のカトリック司教たち全員が、核軍備撤廃に向けた『決定的かつ勇気ある歩み』を呼び掛ける共同声明を発表した」と付け加えた。
「スコットランドの司教たちは、戦略核兵器の使用が引き起こすであろう、罪のない人間の命に対する無差別な破壊ゆえに、長い間、それらの使用が持つ不道徳性を指摘してきた」と同司教たちは述べた。「欠乏している人たちや貧しい人たちに使えるお金が核軍備に結び付けられているために、今や命が失われつつある」と、同司教たちは付け加え、「核兵器に出費することは諸国の富を浪費することになる」と述べた教皇フランシスコの言葉を支持した。
バプテスト同盟、メソジスト教会、合同改革派教会とクエーカーを代表する団体である合同公的問題チームからの反応は、どれも同じく力強いものであった。彼らは国会議員に対して手紙を書くようクリスチャンたちに強く求めるとともに、政府の計画を「不当だ」「非倫理的だ」と非難した。
スコットランド教会議長のラッセル・バール主教・博士は、自身の教会は核兵器に30年間も反対してきたと語った。「無差別な大量破壊の脅威を通じて平和を維持しようとする試みは、キリストが私たちに求めておられる平和よりもさらに進んだものとはなり得ない」と同博士は述べた。
合同改革派教会のアラン・イェーツ総会議長は、「(地球規模の脅威は)多様で、核兵器では単純に安全保障をもたらすことができない」と述べ、メソジスト会議のレイチェル・ランパード副議長も、英国議会での7月18日の投票は「折が悪い」と付け加えた。
英国バプテスト同盟の「信仰と社会チーム」リーダーであるスティーブン・キーワース牧師は、「恐れに基づいた防衛政策では、聖書が私たちに促している平和を決して達成することはないだろう」と述べた。
英国クエーカー書記のポール・パーカー氏は、隣人を愛することは「大量破壊兵器で他者を脅してはいけない」ことを意味すると付け加えた。
英国国教会は、選挙前の書簡の中で、同教会の主教たちは、過去においては「多くのクリスチャンたち」が「トライデントと共に生きる用意」があったが、しかし今では「核抑止のための伝統的な主張は再検証が必要だ」として、論争を呼び掛けた。
英国国教会の全国的な統治組織は2007年にこの問題について論争し、トライデントの交代は「国際法における英国の義務が持つ精神やそれを支える倫理的な要素に反する」とする動議を可決した。
より最近では、チェスター主教であるピーター・フォスター主教・博士が、英貴族院における討論で、なぜ英国は核抑止力を持っているのかと疑問を呈した。「私たちの継続的で非常に高価な、独立した抑止力の保有は、私が思うに、断続的な検討の下に置かれ続ける必要があるだろう」と、同主教・博士は述べた。
ファーリー記者によると、教会指導者たちが一致して反対する一方、トーリー党の国会議員たちは一致して賛成しているという。彼らは2015年のマニフェスト(政策声明書)で、「トライデントを海の核抑止力として保持し続け」るとともに、古くなった4つの潜水艦を交代させるために「新しい艦隊を築く」ことを約束した。スコットランド民族党は、スコットランド教会と同じように、一致して反対している。しかし、同じことが労働党についても言えるわけではない。
「過去において労働党はトライデントの更新を後援してきたが、現在の指導者であるジェレミー・コルビン氏は長きにわたる反対論者である。この問題は同党を真っ二つに分裂させかねない問題であり、すでに激しい分裂が起きている」と、ファーリー記者は記した。
しかし、英国の主要メディアによれば、同国下院は18日、賛成472票、反対117票で355票差の多数決により、トライデント搭載の原子力潜水艦の更新を可決した。
スコットランドでは英国から再び独立を目指す動きもある。一方、時事通信は7月12日、核保有国である英国、フランス、インド、パキスタンを含め、82カ国が8月6日に広島で行われる平和記念式典に参列を予定していると報じた。しかし、メイ首相が在任中に、同じくクリスチャンである米国のオバマ大統領のように、広島を(あるいは長崎も)訪問する日は、果たして来るのだろうか?