先月中旬にクーデター未遂事件が発生した、使徒パウロの生誕地であるトルコで、同国に住むキリスト教徒らの将来に懸念が高まっている。
中東・北アフリカ地域のキリスト教人権擁護団体「中東コンサーン」(MEC)は、トルコ東部の2つの教会がクーデターの企ての最中に故意に破壊されたと報告している。この2つの教会は、キリスト教徒が殺害された歴史的事件のためによく知られている教会だという。
クーデター中、黒海沿岸の都市トラブゾンでは、2006年にアンドレア・サントロ司祭が殺害された聖マリア・カトリック教会を10人の暴徒が襲撃した。この襲撃では、近所のイスラム教徒が介入し、暴徒たちを追い払った。07年にキリスト教労働者3人が殺害されたマラティア県では、プロテスタント教会の窓を粉々に砕かれる襲撃事件があった。
イスタンブールにある英国領事館の英国国教会チャプレンであるキャノン・イアン・シャーウッド氏は、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領に人権を尊重し、キリスト教徒の権利を擁護するように要請している。シャーウッド氏は英スペクテイター誌に、「何世紀にもわたってトルコに根付いているキリスト教徒として、私たちはトルコのキリスト教徒を取り巻く状況が変わってゆく有様に驚いています」と話した。
シャーウッド氏は、キリスト教徒や他の非イスラム教徒への非寛容が増大する傾向に警鐘を鳴らし、現地の多くのキリスト教徒たちがトルコから逃げようとしていると語った。
「ローマ・カトリックの司教1人が殺害され、私たちの聖職者が脅迫され、10年前に1人の司祭が殺害されたことを心に留めてください。キリスト教の指導者の誰もが、もし彼らが正直であるなら、全く異様なことが幾つも起こっていると言うでしょう」
1世紀前、トルコ人の4人に1人はキリスト教徒であったが、少なくともそのうちの150万人が第1次世界大戦のアルメニア人虐殺で殺された。今日、かろうじて25万人のキリスト教徒が残っているとされてる。その数はトルコの人口の1パーセント以下である。その中でも一番多いのは正教会のキリスト教徒で、大多数のトルコ人はイスラム教スンニ派である。
ブログ「クランマー大司教」の執筆者であるアドリアン・ヒルトンさんは、エルドアン氏支持派のイスラム教徒がオスマン帝国時代に立ち返り、エルドアン氏がしばしば「スルタン(皇帝)」と呼ばれていると書いている。ヒルトンさんは、エルドアン氏が不倫を違法とし、アルコールを禁じるシャリア学派に傾倒していると述べている。
ヒルトンさんは、「どちらがまだましな悪なのでしょうか? 軍事クーデターの深刻な不安か――それは決して何かへの答えではありませんが――、あるいは一致と同胞愛のかなりたくましい観念で満ちた『適切な』イスラム教の国を造ることを求める民主的に選ばれた指導者か」と問い掛けている。
米家庭研究協議会(FRC)のトニー・パーキンス会長は、「全ての人の関心」になるべきことは、今回のクーデター未遂事件がトルコのキリスト教徒と他の少数派の人々の将来にもたらす影響だと述べている。
「1915~23年の間に行われた、推定死者数150万人を出したアルメニア人キリスト教徒に対するトルコの虐殺の歴史(教皇フランシスコも最近認めた戦時中の残虐行為)を考えると、今トルコに住んでいる12万人のキリスト教徒たちは最も憂慮されるべき状況に置かれている」
パーキンス氏は、トルコにおけるキリスト教徒への迫害と殺害は続いており、何人かのキリスト教徒が1軒の家におびき寄せられ、身震いするような拷問を受け、殺害されてからまだ10年足らずしかたっていないと指摘している。また、教会は閉鎖され、キリスト教徒らは頻繁にののしられ、中傷されていると述べている。
トルコでは今年これまでに、自爆テロ犯が南東部にあるキリスト教徒の村で5人を殺害した。昨年のクリスマスには、何人かのイスラム教徒がクリスマスの祝祭に反対し、キリスト教徒らの死刑を要求するなどした。
パーキンス氏は、「最も不安にさせるのは、トルコの国家安全保障会議が、キリスト教宣教師の活動が国民の主要な治安問題の1つであると断定し、発表した事実です」と述べている。
トルコの宗教的指導者たちはクーデターが起こった直後に、その暴力を非難した。クーデターと流血事件を非難する共同宣言を出した人々の中には、東方正教会の全地総主教バルソロメオス1世と、ラブ・イザク・ハレバ主任ラビがいた。宗教指導者たちは愛と平和と正義を呼び掛けた。
宗教指導者たちは、「テロと暴力は、どこから来たものでも、誰によってもたらされたものであっても、決して弁護されたり、合法的だと見なされることはできません。1人の人間を殺すことは人類全体を殺すようなものであり、信者たちによって絶対に受け入れられないでしょう」と述べている。トルコ・プロテスタント教会連合もまた、クーデターを非難し、知恵と理解を訴えた。
一方、穏健なイスラム教徒もまたターゲットにされている。
トルコ政府は、陰でクーデターの糸を引いていたとして、米国在住のフェトフッラー・ギュレン師を訴えたが、ギュレン師はその事実を否定した。
トルコの首都アンカラに拠点を置くキリスト教ラジオ放送局「ラジオ・シェマ」は、クーデター未遂事件の後、亡くなった死者たちのためのイスラム教徒の祈りが「継続的にモスクから放送された」ことを報告した。
ラジオ・シェマは、「これまで以上に今、クリスチャンがこの国にいる必要があります。そうすることにはある反動が伴うでしょう。しかし、私たちは神の真理を忠実に、誰かを軽んじることなく、ここに生きる人々に宣言しなければなりません」と伝えた。
バチカンの通信社「アジェンジア・フィデス」によると、休暇のためトルコ国外に滞在中の全地総主教バルソロメオス1世は、クーデター未遂事件が発生した大変な時期にどのように状況に対処するか、イスタンブールの全地総大主教庁で働く聖職者と信徒らに助言するメッセージを送った。