南スーダンで再び内戦状態になる危惧が高まっている。首都ジュバで6月7日、サルバ・キール大統領派による軍と、リエク・マシャール第1副大統領派による軍の間で戦闘が勃発した。その後、暴力はエスカレートし、数百人が殺害された。死者の中には、数十人の一般市民が含まれている。
南スーダンは2011年にスーダンから独立したものの、内戦が勃発し、ようやく内戦状態から脱した経緯がある。今月9日には独立記念を祝ったばかりだったが、2度目の内戦が起これば、この世界一若い国にとって壊滅的な打撃となる。
キール派とマシャール派の対立は数年前にさかのぼる。13年12月、マシャール派の兵士によるクーデター未遂に続き内戦が勃発した。戦闘はエスカレートして国中に広がり、民族的な分裂を引き起こした。キール氏はディンカ族出身で、マシャール氏はヌエル族の出身だからだ。百万人余りの市民が強制退去させられ、数千人が殺害された。14年には食糧危機が世界最悪となり、同年8月に始まった和平交渉は、戦闘が続いたため数カ月間長引いた。翌15年8月にようやく停戦協定が調印され、マシャール氏は16年4月、統一国家の暫定政権で初代第1副大統領に就任し、首都ジュバに戻った。
しかし政情不安は続き、今月7日にジュバで戦闘が再開した。キール、マシャールの両氏は軍に戦闘命令を出したことを否定したが、それは両氏が軍を掌握しきれていないことを露呈する結果となった。
米国は11日、両派の武装勢力に戦闘を中止するよう勧告し、戦闘を即時終結するよう求めた。「この無意味で許しがたい暴力は、国や民衆の幸福よりも自己の利益を優先する人々によって起こされたもので、南スーダンの国民が過去5年間に獲得した全てを危機にさらすものです」と、スーザン・ライス米大統領補佐官は述べた。
「5年前の今週、南スーダンの人々は国家の独立を喜び祝いました。現行の暴力は独立記念日を尊重するどころか、既に十分過ぎるほど苦しみ抜いてきた南スーダン国民のトラウマを再び呼び覚ましています。戦闘に加わっている者は皆、即刻やめなければなりません」
カンタベリー大主教「暴力求める人々には神の裁き」
他国や他宗教の指導者らも平和を呼び掛けた。カンタベリー大主教ジャスティン・ウェルビー氏は、反目し合う両派に調停を受け入れるよう促した。
「最大の被害者は貧しい者たちであり、特に女性や子どもたちです。暴力を求める人たちは、人々を死に至らしめた報いとして神の裁きを受けることになります」「彼らは今からでも方向転換することができます。私たちは彼らがそうするよう勧めるとともに、平和の君なるイエスにそうなることを祈ります」
キールとマシャールの両氏は11日夜、敵対行為をやめるようそれぞれの支持者に命じ、停戦を宣言した。大統領報道官は、「(キール氏はマシャール氏との)パートナシップを継続する決意でいる」と語った。
現地の人道支援者たちは「軟禁状態」
両軍はそれぞれの指導者の命令に従い、現在戦闘はやんでいると、現地の住民は話している。しかし、ジュバは依然として緊張状態にある。英国ワールド・ビジョンの実務責任者で、2週間前にジュバから帰国したステファニー・グリンクシー氏は、ジュバにいる人道支援者たちは全員「軟禁状態」にある、と英クリスチャントゥデイに語った。
「停戦宣言がなされていても、それが現状です。ジュバの状況は依然として流動的で、緊張状態にあります。今こそ、本当に平和が求められるべきです」と彼女は言う。
ジュバにいる同僚がグリンクシー氏に伝えたところによると、ここ数日、町には人影がなく、市民らは自宅や教会、学校などに集まるか、断続的に鳴り響く銃声を恐れて町から逃げ出しているという。しかし、停戦が実施されたため、市民らは南スーダンの将来的な平和に希望を抱いている。
「この国の人はとても屈強で、打たれ強い人々です。国の再建に前向きです。人々に必要なのは、再建の手段と適切な支援です。彼らはこの国を見捨てていません」とグリンクシー氏は語る。
深刻な食糧不足、必要支援額の6割足らず
たとえ暴力が治まるとしても、南スーダンの平和への道は長く険しい。約480万人の国民は深刻な食糧不足に直面しており、5歳未満の子どもの4人に1人は、重度の栄養失調だ。国連が南スーダンのための資金提供を訴えているが、目下、必要額の39パーセントしか満たされておらず、不足額は8億ドル(約765億円)に上る。
キリスト教主義の支援団体「ティアファンド」のアフリカ東南部責任者、ドナルド・マブンデス氏は、南スーダンの将来は停戦が継続したとしても不確かだ、と英クリスチャントゥデイに語る。
「この紛争によって絶望的だった状況が一層悪化したというのが現状です」とマブンデス氏。「480万人の国民が既に深刻な食糧不足の状態にあり、食糧や水が手に入りません。また国民の多くは国外追放されています。暴力行為が長引けば状況は一層悪化し、私たちの支援を難しくするでしょう」と話す。
ティアファンドは南スーダンの諸教会を通じ、最も助けを必要とする人々の必要を満たす働きをしている。ここ数日、ジュバ市内の教会が、国外退去させられた数万人の人々の緊急の必要に対応するのと並行して、長期的な開発支援に従事している者も大勢いる。
「南スーダン全域に人里離れた困難な場所があり、現地の教会は、そういう所に信徒を抱えています」とマブンデス氏は言う。多くの地域で、「私たちは、政府の手が届かない支援活動を提供しています」と付け加えた。
現地教会指導者「今は平和な国家を築く時」
南スーダン教会協議会は今月10日に声明を発表し、教会指導者は国の紛争状態を「深く憂慮している」と述べた。
「私たちは、全ての暴力行為を例外なく断罪します。武器を持ち、使用する時は終わりました。今は平和な国家を築く時です」と訴える声明文が、ラジオ放送で読み上げられた。
「私たちは、殺害された人々とご遺族のために祈ります。また、殺害した者たちの赦(ゆる)しを神に乞い願います。しかし同時に私たちは、武装した個人、軍隊やコミュニティーの全ての人と、その指導者らが悔い改め、暴力を使わない社会の創設に邁進(まいしん)するよう願います」
「私たちは、サルバ・キール大統領とリエク・マシャール第1副大統領による停戦宣言に励まされています。私たちもお二人に声を合わせます。兵士も一般市民も挑発的な言動を慎み、状況悪化を回避するために力を合わせて最善を尽くすよう願うものです」
停戦継続への希望
マブンデス氏の同僚らは、断言はできないものの、停戦は続くという希望的観測を持っているという。
「大統領と第1副大統領が合意したにもかかわらす、平和協定が破られてしまったことが以前ありました。独立記念と同時に暴力が勃発したことは、現在の状況がいかに尊いかを物語っています」
「停戦が守られ、戦闘が長期的あるいは恒久的にやむなら、私たちは困っている人たちをもっと支援できます。安定した環境がつくられるなら、復興の道が開かれます。戦闘状態の中で支援する場合、状況的に基本的なサービスしかできません。しかし暴力が収まれば、教会を通して、食糧の自給自足などの中長期的な支援を始めることができます。そうすれば、私たちの食糧配給所に依存しなくても済むようになります。私たちは、南スーダンの人々が自立することを望んでいます」とマブンデス氏は語った。