選挙年齢が18歳に引き下げられてから初の選挙となる第24回参議員選挙の公示を前日に控えた21日、「急に選挙権を与えられても、政治にあまり関心を持たない若者が多いのではないか」と、青山学院大学の3つのゼミが合同で、若者と政治についてディスカッションする「AGU白熱教室」を行った。ゲストに、「自由と民主主義のための学生緊急行動」(SEALDs)創立メンバーの奥田愛基(あき)さんを招いて、「なぜ私は、政治参加するのが難しいのか」という問いから出発し、自分たちの社会や政治とどのように関わっていけば良いのか、考える時間を持った。
会場となった青山学院アスタジオ(東京都渋谷区)のホールには、同大総合文化政策学部の中野昌宏教授、福田大輔准教授、森島豊准教授の3つのゼミに所属する学生約100人が集まった。「ここまで集まってくれて、壮観ですね」と、まずは中野氏が企画の趣旨について説明。「18歳から投票できるようになったが、その1票を無駄にしないで使ってほしいと思い、勉強する機会を設けようと企画した」。
当初は、「偉い先生の講演会」という案が出ていたそうだが、準備を主導する学生たちが、「どうせやるなら面白い方法でやりたい」「同じ世代の考えを聞きたい」と、奥田さんを招くことになったという。また、学生一人一人が各自の考えを深められるようにと、メッセージをメンバー全員に一斉配信できるサービス「LINE@」を活用。参加者全員からの質問や意見を随時受け付け、その声を拾いながら会場が一体となってディスカッションできる工夫をした。
事前に各ゼミで、若者と政治をテーマにディスカッションしたところ、「教育」「メディア」「独裁政治」という3つのキーワードが浮上したという。「白熱教室」開講に当たっては、あらためて意見、批判、問題提起を温めた上でゲストの奥田さんを迎えようと、まずは少人数に分かれてのプレ・ディスカッションの時間を取った。
15人ほどが円を組んだあるグループでは、「選挙権があるのに選挙に行ったことない人はいる?」と問われて手を挙げた数人の女子学生が、「みんな行っているの?」と心底驚いた様子を見せていた。だが、「どうやって投票先を決めているか」という問いになると、選挙に行くという学生からは「会ったことがある人にした」「顔で決めた」と、明確な理由なしに投票に行っている声が多く上がった。「そもそも政治が自分に関係があるとは思えない」という意見に賛同する学生が半数以上を占め、「どの党の言っていることも同じに聞こえる」「きれいごとしか言っていない」という率直な感想や、「メディアでもっと政党ごとの主張の違いを説明してほしい」などといった要望も上がった。
プレ・ディスカッション後に登壇した奥田さんは、若者の政治参加が難しい理由について、社会そのものに政治参加する土台がないことを指摘した。奥田さんも学生たちと同世代の20代前半だが、父母の世代までは、地域の人々のつながりが強く、企業の労働組合の活動も盛んに行われ、一人一人が社会の一員であることをさまざまな場面で自覚することができた。そうした動きが減少しつつある現在を、「重要な過渡期にある」と見る奥田さんは、「これまでは若者に選挙のカルチャーがなかった。ゼロからカルチャーをつくらなければいけないのだから、難しいと感じるのは当然のこと」と話した。
また、経済学者ヨーゼフ・シュンペーター(1883~1950)が展開した「エリート民主主義」と、政治学者キャロル・ペイトマン(1940〜)による「参加民主主義」の対比というオーソドックスな民主主義理論を提示し、「民主主義は制度なのか?」「今の政治はうまくいっているのか?」と、議論の土台となる質問を会場に投げ掛けた。奥田さんは、「今の制度のままでは若い世代が不利益を被ってしまう」と考え、参加民主主義に賛同する立場でデモ活動を行っているという。
各ゼミの代表者が奥田さんと共にパネリストとして登壇し、LINE@で会場の声を拾いながら、「教育」「メディア」「独裁政治」の3つのテーマを軸に、ディスカッションが繰り広げられた。「教育」では、海外の学校に通学した経験のある学生が、帰国後経験した日本の教育から、「日本が第二次世界大戦でいかに失敗したかなど、政治があまりにも大きなことのように感じられるような教育」だと感じたと話し、「それが、政治参加へのハードルを高くしている理由ではないか」と意見を述べた。また、別の学生からは、「教育は学校だけでなされるものではない。家庭レベルでの教育自体に既に問題があるのではないか」という声が。奥田さんが会場に挙手を求めると、「家庭で政治について話しをする」という学生は全体の半数にも満たなかった。
「メデイア」については、「メディアが取り上げるのは、政治の悪い部分ばかり。マイナス面ばかりが報道されるのが、若者の政治離れの理由の1つではないか」という学生からの意見。それに対し、奥田さんは「その通りである一方、称賛・批判というだけでなく、政治が取り扱う社会の問題そのものに焦点を当てていないことも問題」と答え、「ありのままに報道できないメディアの体質にも問題があると思うし、政治に関係のない話題ばかりを喜んで選択してしまう視聴者側にも少なからずの責任があるとも思う」と話した。
「独裁政治」は、学生の中で「実は無意識にわれわれは独裁政治を求めているのではないか。難しいことを自分たちで決めるのは面倒だから、エリートたちに決めてもらいたい、というのは独裁政治を求めていることと同じではないのか」という意見から出てきたキーワードで、「民主主義以外の選択肢である独裁政治・王制も視野にいれて考えを広げる必要があるのではないか」という議論へと展開したという。奥田さんは、王政から民主制に移行したブータンの国民幸福総量が下がったという事例から、「正しい指導者による独裁政治」と「間違った民主主義」のどちらが良いのかという議論を提示。学生からは、「これまで王制で物事決めていたサークルが、不満が起きてきたので、民主制になった。しかし、そうすると決定までに時間が掛かるので、リーダーが決めること、メンバー全員で決めることに分けたところうまくいった」と、サークル活動での身近な例が紹介され、「民主制と王制をバランスよく政治に取り入れるにはどうしたら良いのだろう?」と学生たちは考えを膨らませた。
予定時間をオーバーするほどに議論は白熱したが、本音では「政治は自分には関係ない」と思っている学生も多いようで、LINE@にはそうした声も多く投稿された。奥田さんは、「『保育園落ちた日本死ね』が話題になったが、自分には子どもがいないので、確かに保育園の問題は関係ない。でもなぜ、この問題は自分には関係ない、と社会が分断してしまうのか。巡り巡って、自分にも関係があると考えられるのではないか」と呼び掛ける。日本の政治家の年齢層が非常に高いという事実を共有した上で、「だからこそ、同じ感覚を持っている若者たちに政治に関心を持ち、まずは選挙に行くことから始めてほしい」と呼び掛け、帰り際の学生たちからは「やっぱり選挙行くことにした」という声が多く聞かれたのが印象的だった。
今回の企画を振り返り、森島氏は、「今の時代の動きから距離を取る学生たちの姿を見て、政治に関心を持ってもらう機会を提供しようと、昨年は中野教授と共に、歴史的な視点をしっかり学んでもらうことを意図して、憲法制定史に関する映画を上映したが、学生はほとんど参加しませんでした。そこで今回は、大人は前に出ず、学生が発言できる環境をつくりたかったので、学生たちを主体にすることを大事にした。結果、学生たち自身が、さまざまなアイデアを出して発言できる環境をつってくれた」と話す。
実際にディスカッションを終えて、「学生たちが決して関心がないのではない、ということを感じた。取り囲んでいる環境に、政治について話せる場所もなく、教育もされていない。政治の内容ではなく政治家のスキャンダルしか入ってこないメディアやネット社会。そこで学びの場所と環境を整えれば積極的に考えることができることを教えられた」と話す森島氏は、「次回は『若者と政治家』というテーマで政治家の人々を招き、AGU白熱教室を続けていきたいと思う」という。