三浦綾子の長編小説『銃口』を扱った「三浦綾子 銃口展」が、青山学院大学青山キャンパス(東京都渋谷区)のガウチャー記念礼拝堂・エントランスホールで14日から始まった。三浦綾子の遺言ともいわれる『銃口』が、現代の私たちに語り掛けるものとは何か。人が人らしく生きられるとはどういうことなのか。展示は25日までで、18日には三浦綾子記念文学館(北海道旭川市)の特別研究員による講演会も行われる。
『銃口』は、1940年から41年に起きた言論弾圧事件「北海道綴方(つづりかた)連盟事件」を題材に、「昭和と戦争」を描いた作品。三浦綾子自身が、軍国主義教育に何の疑いも持たなかった教師時代の反省から、「この昭和という体験は、どうしても書き残しておきたい。戦争を二度と起こしてはならない、起こさせてはならないと、若い人たちが真剣に考えてくれれば」という願いが込めれられている。
会場では、展示パネル9枚と、創作ノート、新聞記事、関係者の手紙、文集、写真、書籍などが紹介されている。展示パネルには、主人公の北森竜太の年表と、その時代ごとに起きた出来事や用語の説明などが書き込まれており、竜太がどのような時代を生きたのか、分かりやすくまとめられている。
また、竜太のモデルとなった小川文武さんへの取材ノートや、登場人物の設定を記したノート、竜太の家である北森質店の見取り図を細かくスケッチしたものも展示されている。
北海道綴方連盟事件では、治安維持法違反容疑で多くの教師が検挙された。「綴り方(作文)」について、当時の「熱心な先生の考え」と「文部省の考え」を比較した資料によると、教師は「ありのままに書かせる」としているのに対して、文部省は「先生の教える通りに書けばよい」としていた。「自由に書く」ことがどんなに難しい時代であったかをあらためて知ることができる。
「三浦綾子の小説は、御言葉をそのまま引用しているわけではないですが、聖書の言葉で溢れています」。同展を主催する三浦綾子読書会『銃口』展実行委員会のスタッフは、三浦綾子が『銃口』を通して、人間とは何か、戦争とは何か、神とは何かを自らに問い掛けていたのではと言う。「戦争に向かいそうな世相の中、ぜひ若い世代の人たちに三浦綾子のメッセージが託された『銃口』展を見てもらいたい」と話してくれた。
同展は、三浦綾子記念文学館が行っている移動展示事業の一環で、東京では今回が初開催だという。入場無料。午前11時半〜午後6時(日曜休館、18日は午後3時まで、25日は午後8時まで)。18日(土)午後1時〜2時半には、森下辰衛氏(三浦綾子読書会代表、三浦綾子記念文学館特別研究員)による講演会「“人間として生きること語ること”〜三浦綾子『銃口』が現代に語る希望」が、ガウチャー記念礼拝堂で開催される。講演会は一般500円、学生無料。手話通訳あり。
同展開催期間中は、展示会場前にある青山学院大学購買会書籍売り場で、特別コーナーを設けて三浦綾子の作品や関連作品が紹介されており、特典も用意されている。購買会の営業時間は平日午前8時45分~午後6時45分(土曜は午後5時まで)。