インドにおける迫害――モディ首相の主張とは裏腹に、キリスト教徒とイスラム教徒の苦しみは終わらない。
インドのナレンドラ・モディ首相は8日、同国の憲法は信仰の自由を擁護しており、インドは「自由と民主主義と人間の平等を掲げる近代国家」だと主張した。
モディ首相はこの日、米ワシントンで開催された米上下両院合同会議で演説した。インドの首相としては、歴代5人目の演説となった。2014年5月に現職に就任したモディ首相は、聴衆の前でこう語った。「わが国の政府にとって、憲法は聖典そのものです。その聖典には、信仰と言論、参政の自由、また出自のいかんを問わず、基本的人権として全ての国民の平等が擁護されています」。そして、「12億5000万人の国民全員が恐れからの自由を手にしており、全生涯にわたりその自由を謳歌しています」と続けた。
モディ首相の演説が注目に値することには、理由がある。モディ首相は前回の渡米の際、「信仰の自由に対する重大な違反」により、入国ビザ取得不適格外国人官僚として法的嫌疑をかけられ、米国への入国を禁止された経緯があるからだ。
05年、米国際宗教自由委員会(USCIRF)からの報告により、モディ首相は入国ビザの発行を拒否された。USCIRFの報告によると、02年に700人以上のイスラム教徒の死者を出したグジャラト暴動の際、モディ首相はヒンズー教過激派から支援を受けていたとされている。
また08年には、USCIRFのフェリス・ゲアー委員長(当時)が米政府に対し、モディ首相の入国禁止を支持するよう要請している。ゲアー委員長は当時、次のように発言した。「インド政府の閣僚らが認識している通り、モディ氏は何千人ものイスラム教徒に対して、実にひどい組織的人権侵害を行っています」
「モディ氏は、観光ビザしか発行してもらえない理由を、米国務省と米国民に対して説明する義務があります。モディ氏は信仰の自由を含め、人権をはなはだしく侵害する行為を助けたからです」
しかし、モディ首相は14年9月、首相就任後初めて米国を訪問し、バラク・オバマ米大統領と良好な関係を築いているといわれている。昨年、オバマ大統領がインドを訪問した際には、公の場でオバマ大統領を何度もファーストネームで呼んでいた。
しかし、モディ首相と米国の関係は、依然として緊張状態にある。
USCIRFの代表者は今年3月、インドへの入国ビザ発行を拒否された。USCIRFが15年、インドの宗教暴動が3年連続で増加していると報告したためだ。
インド政府のビカス・スワルプ報道官は、USCIRFによる報告が「インド憲法とインド社会に関する適切な理解」に欠けていたとしている。
「インドは民主的な原則に固く立つ、躍動的な多民族社会です。インド憲法は、宗教の自由を含め、基本的人権を全ての国民に保障しています」と、スワルプ報道官は付け加えた。
「政府は、USCIRFのような外国の機関に、憲法上保護されているインド国民の権利について、意見を述べる権限があるとは考えていません。インド政府は、USCIRFの報告を一切認めません」
USCIRFは、その代表者に対する入国ビザ発行拒否に抗議した。「多民族社会であり、無宗派の民主主義国家であり、米国の友好国であるインドは、当委員会の訪問を許可してしかるべきす」と、USCIRFのロバート・ジョージ委員長は述べた。
USCIRFによる16年度の報告が今年5月に発表されたが、USCIRFは、インドにおける宗教の自由に関する「否定的な軌道」をためらうことなく繰り返し強調した。
「与党インド人民党の党員は、これらの(宗教暴動を起こす)グループを暗黙のうちに支援し、宗教的差別用語を使って対立をあおりました。こうした問題は、警察による不平等な取り締まりや、司法による不十分な対応の問題が長期化していることと合わせ、刑事罰看過の風潮を生み出す大きな要因となっています。そのような状況では、宗教犯罪が発生しても宗教的少数派はよりどころがないため、ますます不安を募らせています」
インド人民党は、強大なヒンズー教至上主義組織「民族義勇団」(RSS)の政治団体で、同じく同党を支援する世界ヒンズー協会(VHP)は、国粋主義を使ってヒンズーバタ(インド人とはヒンズー教の信仰を持つ者のことだという概念)を推進している宗教団体だ。VHPは、約700万人の会員を擁すると豪語し、「再改宗」教育プログラムを定期的に行っている。このプログラムでは、ヒンズー教以外の宗教を信じる少数派のインド人は、ヒンズー教に改宗するよう勧められる。この団体は、キリスト教も含め、ヒンズー教以外の宗教への改宗は、「テロの根源」だと主張している。
モディ首相就任後の3カ月間で創設されたRSSの支部は、2千カ所近くに上る。就任後の1年間で、支部所属の中高年層による宗教的少数派へのヘイトスピーチと襲撃が急増し、14年5月〜15年5月の間に、暴力事件が600件余り起きた。それらの大半はイスラム教徒に対するもので、少なくとも43人の死者が出た。
宗教的自由の慈善団体「世界キリスト教連帯」(CSW)の専門家は、モディ首相は宗教的自由が憲法で保障されていると主張しているが、実際は機能していないと英クリスチャントゥデイに語った。「インドは地域社会の信仰の多様性を認めていると、モディ首相は言い続けていますが、実生活で私たちが目にしているのは、正反対の状況です」
安全上の理由から匿名で提供された情報によると、現政権下では、ヒンズー至上主義を掲げる右派グループに有利な状況が作り出されているという。「宗教的少数派を堂々と威嚇し、襲撃する集団が増えており、襲撃されている少数派の多くは、イスラム教徒とキリスト教徒です。襲撃は、過去2年間で急増しました」と情報提供者は言う。
この情報提供者が最近インドを訪れたとき、インドでは毎日キリスト教徒が襲撃されているという話を聞いたという。隣国パキスタンとの間で進行中の確執と、イスラム教過激派による脅威のために、イスラム教徒は宗教的迫害の矢面に立っている。キリスト教徒も襲撃されているが、その問題は報告されるに至っていない。
RSSが影響力を持つ地域では、警察はキリスト教徒から迫害の通報を受けても、誠実に取り合おうとしない。強制改宗を迫ったと、不正に非難されるキリスト教徒も大勢いる。不正な改宗をさせた場合、反改宗法により重い罰が課せられる。情報提供者は、強制労働を課された牧師の話をしてくれた。牧師は、ヒンズー教徒たちにキリスト教徒になるよう強要したと訴えられ、保釈金を払わなければならなくなり、負債を負ったのだった。
「これは、迫害の別の一面です。迫害はいつも暴力だとは限りません。お金の場合もあるのです」と情報提供者は言う。
モディ首相は昨年11月、就任後初めて英国を訪問した。CSWは、インドにおける宗教的自由のために、強い方針を取るよう英政府に要望した多くの人権団体の一つだ。
情報提供者が英クリスチャントゥデイに語ったところでは、英国はこの問題に関して、依然として「弱腰」だという。インドとの貿易関係を維持したいためだ。しかし、もし英国や米国のような国々が強硬な姿勢を取らなければ、インドの宗教的少数派の信仰の自由は、間違いなく悪化すると考えられる。
「強硬な姿勢を取らないことにより、インドの宗教的少数派にとても悲しいメッセージを送っていると思います。彼らは、英国が民主主義と法の支配を推進してくれると当てにしています。私たちは宗教と信仰の自由について、自国内で懸命に訴えています。同時に、貿易関係者とも大胆に話を進めていく必要があります。しかし、英国はその方面においてほとんど何もしていません」と情報提供者は指摘する。
「インドと貿易をしている国々が、宗教や信仰の自由に関する問題を積極的に取り扱わない限り、表現の自由や宗教的寛容さ、報道の自由の状況は悪化するでしょう」と情報提供者は言う。
「インドの原理主義者たちは、インド人民党の勝利を今も喜んでいます。なぜならRSSの指導者モハン・バグワットは、インド人民党が政権を取ったとき、ヒンズーバタ主義が急成長し、インドが昔の栄光を取り戻するのは時間の問題だと明言したからです」
「私たちがインドの現状と闘わないなら、ヒンズー至上主義は成長し続けるでしょう」