キリスト教運動、労働運動、国会議員など幅広い活動を行った賀川豊彦(1888~1960年)を現代的な視点から捉え直そうとする研究が近年、盛んになっている。
昨年、明治学院大学で開催された「震災後の日本における宗教的ミニストリーの理論と実践」第1回シンポジウム(東京基督教大学共立基督教研究所、明治学院大学キリスト教研究所、賀川豊彦記念松沢資料館共催)の内容を収録したDVD「21世紀に甦る賀川豊彦・ハル」が、キリスト教的価値観に基づいた映画・映像制作を手掛けているロゴスフィルム社から1500円(税込)で発売されている。
■ DVD「21世紀に甦る賀川豊彦・ハル」ダイジェスト映像
16歳で、日本基督教会徳島教会で受洗。19歳で結核に倒れるが一命をとりとめ、21歳からは神戸のスラム街に住み路傍伝道を開始し、女工だったハルと出会い結婚。その後、米国に留学し、帰国後は牧師としても活動、1920年に出版した自伝的小説『死線を越えて』は、当時の大ベストセラーとなり、一躍名を知られるが、印税のほとんどを社会運動のために投じた。
また労働者の生活の安定のため、神戸購買組合(現・コープこうべ)を設立するなど生活協同組合にも取り組んだ。その後も労働運動、無産運動に取り組みながら、1920年代は「神の国運動」を開始、中国、米国など海外でも伝道活動を行った。
戦後は貴族院議員を務め、日本社会党の結成にも参画。ブラジルやタイなど海外での伝道活動も続けた。戦前は「貧民街の聖者」としてインドのガンジー、米国のシュバイツァーと並び称されるほど国際的にも知られており、近年の資料から、1947年と48年にノーベル文学賞の候補に、1954年から56年にかけては3回ノーベル平和賞の候補者として推薦されていたことが分かっている。1960年死去。勲一等瑞宝章を贈られた。
同シンポジウムでは、賀川豊彦・ハル夫妻の思想と実践の全体像を、資本主義や貧困など近代化によって生じた問題について今日にも多くの示唆を与える「オルタナティブ(代替的)な市民社会の原理」として捉え直そうとする発表と議論がなされている(シンポジウムの記事はこちら)。
DVDには、トマス・ヘイスティングス氏(賀川豊彦記念松沢資料館研究員)の基調講演「あらゆるものを全体から見る姿勢」のほか、「賀川豊彦の復権」金井新二(賀川豊彦記念松沢資料館館長、東京大学名誉教授)、「労働組合、協同組合、NPOの連携」篠田徹(早稲田大学社会科学総合学術院教授)、「豊彦とハルのパートナーシップ」岩田三枝子(東京基督教大学神学部専任講師)の3氏によるパネルディスカッションや資料なども収録されている。
オアシスブックセンター新宿店をはじめ、全国のキリスト教書店で取り寄せ可能。問い合わせはロゴスフィルム(電話:042・458・0712、メール:[email protected])まで。