在日本韓国YMCA(東京都千代田区)は25日、同YMCA地下1階のスペースYで創立110周年記念式典を開催した。180人の出席者は、「主が指し示す希望に満ちた」道を歩み続けることを誓い、同YMCAの青年たちが「受け継ぐ時代から創り伝える時代へ」と踏み出すことができるよう傾注することなどをうたった「在日本韓国YMCA創立110周年宣言」を発表した(=下記にその全文)。
同宣言が在日本韓国YMCA青年会員代表の柿沼里帆さんによって日本語で読み上げられると、出席者一同は拍手をもってこれに賛同した。
この式典のほとんどは韓国語で日本語通訳付きで行われた。壇上には、講壇の後ろに、朝鮮が日本の植民地支配下にあった1919年2月8日に、同YMCAで読み上げられた独立宣言書が記された大きな屏風が置かれていた。その上にあった記念式典の看板には、韓国語と日本語で「和解と共生 すべての人を一つにしてください」と記されていた。
礼拝形式によりこの式典の初めに、奏楽者による前奏の後、出席者が一同起立して、国民儀礼として大韓民国の国旗敬礼と愛国歌斉唱を行った。そして一同が賛美歌「歴史、闇深く」を斉唱すると、在日韓国宣教師協議会東日本地方会長の金光鉉(キム・グァンヒョン)牧師が、日本語の同時通訳を通じて、「生きておられる父なる神様、感謝と賛美をささげます。神様が私たちの民族を愛し、110年前にこの地に在日本韓国YMCAを建ててくださり、この地に留学に来た若い青年たちと共に歩んでくださり、信仰を与え、祖国の独立のために働くことができ、また日本と韓国においても平和の使徒として働くことができ、導いてくださり、感謝をいたします」などと祈った。
「この地を愛します。この地にさまざまな困難があったときにも祈ってきました。民族の困難の中においてもこの地の人々は献金をしてくださいました。祈ってくださいました。キリストの精神を、YMCAを通して一つ実を結ぶことができますように。神様がこの地に送ってくださったことを覚えて、在日本韓国YMCAが仕えますように。110周年を感謝します。神様がこれからも導いてくださることを願います。お用いください」と金光鉉牧師は祈った。
最後に、「キリストの精神が満ちあふれますように。キリストの平和がこの地を覆うことができますように。この民族と共に兄弟姉妹になり、神の国を広めることができますように。神の国が完全に広められますように。私たちの祈りを聞いてください。主イエス・キリストの御名によって祈ります。アーメン」と結んだ。
続いて、聖経奉読(聖書朗読)として、主が示す地に行くようアブラハムに命じ祝福を約束した創世記12章1~4節が、同YMCA副理事長の鄭順葉(チョン・スニョプ)牧師によって奉読された。聖歌隊によって特別讃揚「威厳・尊厳・栄誉」が韓国語と日本語で歌われた後、在日大韓基督教会総会長の金性済(キム・ソンジェ)牧師が「神の祝福として生きる寄留者」と題して韓国語で説教を行った。
この説教で金性済牧師は初めに、在日本韓国YMCA創立110周年を記念しお祝いの言葉を述べ、神に感謝と賛美をささげた。在日本韓国YMCAで出会った先生たちを通して、人生観・世界観が変わり、韓国や歴史を見る視点が新しくなっていったある青年の話をし、日本語の同時通訳を通じて、「それは私です」と語った。
「神様は、困難な時代においてわが国が苦しいときに、朝鮮半島のど真ん中において新しい歴史を始めるよりは、海外で生きているディアスポラ、旅人として生きる存在を選び、大事な歴史の出来事を起こす、その準備をしてくださった。神様がそういうことをなさった、そのように感じたわけです」と金性済牧師は語り、「誇りを持って日本で在日として生き、神様に仕え、そして神様に呼び出され、その歴史に参加できる、そのように感じてきました。またその確信を持っております」と付け加えた。
また、聖経奉読に出てきた創世記12章1~4節にある、神の使命を受けたアブラハムの話について、「三つの約束がここにはあります。故郷を離れなさい。私の示す地に行きなさい。そこであなたの名に大いに祝福を与える。そしてあなたの子孫たちが大いなる国民になるということです」とまとめた。「聖書の御言葉を文法的に正確に翻訳していくと、『私がその地を祝福するためである』と書かれています。皆さん、アブラハムの人生と存在自体が祝福である。そのように神様は、アブラハムにお語りになったのです」と説明した。
金性済牧師は、「神様に求めるものは何でしょうか? 祝福であります。言い換えれば、自分が幸せに生きていきたい。どこの国でも幸せに生きていきたい。祝福を受けたい。その地において成功したい。そして豊かに生きたい。また力を持ちたい。そのように考える人たちが多くいます」と話した。しかし、神がアブラハムに述べた祝福はアブラハムの存在自体であり、「そこに生きているさまざまな民の祝福になるということ」だと語った。
「神様の御言葉を考えてみますと、自分の存在自体が祝福になるとは一体何でしょうか? それは、私たちが創世記の御言葉を通して、アブラハムはカナンの地においてどのように生きたか、どのように働いたかということを見れば分かります」と金性済牧師は語った。「祭壇を築いたのです。また井戸を掘ることです。祭壇を築くとは、神様と人間との間に平和を実現することです。井戸を掘ることは、人と人との間に平和を与える、そして共に生きることです」
金性済牧師は、「アブラハムはその存在自体が、送られた地において祝福されるということです。この世の中で敵の関係にある全ての人々が和解され、平和に生きる関係を保てる、そのように変わるということです。敵の関係が和解と平和の関係へと変革される、そのようになることが神様の祝福であり、祝福されて生きる人の人生です」と付け加えた。
さらに、「(在日本)韓国YMCAや在日大韓基督教会を用いてくださった神様の意図はどこにあるでしょうか? 天の御言葉から考えてみますと、アブラハムが神様から聞いた祝福、使命であるといえます。この地において、また日本と韓国の間において、また東北アジアにおいて、敵の関係であったものが和解され、平和への道へと歩むことができる、関係が変革される、またされていく、そういう使命を全うすることができる。そのために“祭壇を築き、井戸を掘る”使命を全うすることが、このYMCAに与えられた使命であると信じております」と述べた。
金性済牧師は、昨年11月に在日大韓基督教会が在日本韓国YMCAでマイノリティー国際会議を開催し、その後もマイノリティー宣教センターを設立しようと歩んでいることに触れ、在日本韓国YMCAが担ってきた役割の重大さを強調した。
「私は在日本韓国YMCAの“井戸を掘る”役割に注目します」と語り、1908年に朝鮮長老会、朝鮮監理会が在日本韓国YMCAにおいて一つになったことについて、朝鮮半島においても成らなかったことが、むしろディアスポラの地である東京において成し遂げられたと述べた。
金性済牧師は、神の正義と平和が、東京にある在日本韓国YMCAの精神であり、文化であり、また使命であると語った。
その上で、この在日本韓国YMCA創立110周年をお祝いしながら、この礼拝を通して、またこの行事を通して、在日大韓基督教会の母体となった同YMCAを与えてくださった神に感謝を表し、「このYMCAを愛し、またこのYMCAと共に、私たちもキリスト者として、また教会として、神様から祝福された人生を歩む者となるよう願っています」と説教を結んだ。
金性済牧師は、「父なる神様、歴史を主管してくださる神様、わが国が一番困難に陥ったときに、神様は大いなる計画を持って、この地にディアスポラとして、寄留者として生きていた人たちが、また留学生たちが、この地において神様が先に待っていてくださり、教会を建ててくださった、また(在日本)韓国YMCAを用意してくださった、この地に建ててくださったことを、もう一度感謝いたします」と出席者と共に祈った。
「その歴史を通して神様が表してくださった恵みを、今日も私たちに与えられた使命として心に刻み、その使命をこの時代において実現することができますように。大胆に、怖がらずに、自制心をもって、神様の和解と共生を宣布することができますように。そのような私たちの教会となれますように導いてください。そのために、これからも力強く神様の御言葉と神様に仕えられるYMCAになれますように。主の御名によって祈ります。アーメン」と結んだ。
その後、「在日本韓国YMCA110年の足跡」と題するスライドが上映され、1906年に東京朝鮮YMCAとして発足してから現在に至るまでの在日本韓国YMCAの歴史が映像と共に示された。
また、追慕として、同YMCAの第18・20代理事長を務めた金光洙(キム・グァンス)氏(在日韓国基督教会名古屋教会長老、2016年2月29日召天)、第26代理事長を務めた金廣照(キム・グァンジョ)氏(同横浜教会長老、2014年12月1日召天)を覚えて、一同は起立して黙祷した。
出席者一同が賛美歌「心は波打つ」を斉唱すると、ソウルYMCA名誉理事長の表用垠(ピョ・ヨンウン)元老牧師が祝祷を行い、後奏をもってこの式典は終了した。
記念式典の終了後、同YMCAの9階ホールで、創立110周年を祝う祝賀会も開かれた。この祝賀会では、同YMCAの李清吉(イ・チョンギル)理事長や、日本キリスト教協議会(NCC)の小橋孝一議長、日本YMCA同盟の島田茂総主事があいさつした。
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在日本韓国YMCA創立110周年宣言
1906年、故郷を離れた留学生たちによって異国の地に創立された在日本韓国YMCAは、今年、創立110周年を迎えました。
110年という長い時間を乗り越えて在日本韓国YMCAが今日あるのは、主のご加護と、多くの方々の賛同、支援、尊い奉仕の精神があったからに他なりません。
このYMCAの歩みは、祖国の明るい未来を信じて日本の地で学んでいた韓国人キリスト青年たちによる小さな一歩から始まりましたが、その後の長い歳月を経て、韓国人のYMCAが日本に存在するという次元を超え、さまざまな国籍、さまざまなルーツをもつ青年たちに開かれたものになりました。私たちはこの過程において、「在日」という存在の価値観を見出すに至りました。
今日、「在日」ということばは在日コリアンのためだけのものではありません。海外にルーツを持つ人びと、さらには日本人をも含めた、この社会に生きるすべての人びとのためのことばとなりました。
「在日」ということばの多様性は、すなわちこの日本という国、この社会を構成する人びとの多様性を意味します。私たち一人ひとりは、個性、自分らしさをもった存在です。この社会に生きるすべての人びと、とりわけ若い世代が、自らの個性、自分らしさを輝かせて生きられるようになることを目指して、私たちはこれまで働いてきました。そして、これからもそのための働きを続けていくことを、今、あらためてここに誓います。
10年前、創立100周年を迎えたとき、私たちは「和解と共生」をスローガンに掲げ、韓国と日本だけでなく、アジア、そして世界に働きの場所を広げていくことを誓いました。しかし、その後の世界の歩みを振り返るとき、残念ながら、世界でもこの日本でも、和解と共生の実現ははるかに遠のき、国家間、民族間、宗教間のさまざまな対立がむしろ深まっています。
世界中の人びとが、テロや戦争による暴力に脅えています。富める者と貧しい者との格差は、広がる一方です。この日本でも、ヘイトスピーチや、過去の歴史を書き換えようとする歴史修正主義の嵐が吹き荒れています。震災、そして原発事故によって故郷を追われた人びとは、今なお安らぎの場所を得ることができないでいます。
こうした中で、110周年の節目を迎えた在日本韓国YMCAは、これからも、世にあってさまざまな課題を抱え小さくされている人びと、特に、理不尽な差別や暴力に苦しむ人びとの声に耳を傾けていくことを、今一度確認します。そうした人びとの声を広く社会に届け、共に生きていけるようにすることこそが、真の多文化共生社会を実現する唯一の道であると固く信じます。
私たちは、いかに険しくとも、主が指し示す希望に満ちたこの道をこれからも歩み続けていくことを誓うとともに、これからの在日本韓国YMCAを担う青年たちが「受け継ぐ時代から創り伝える時代へ」と踏み出すことができるよう傾注することを、創立110周年を迎える今日この日に宣言します。
2016年4月25日
在日本韓国YMCA
(作成:在日本韓国YMCA創立110周年記念事業準備チーム)