日本輸血・細胞治療学会など関連5学会による合同委員会(座長:大戸斉・福島県立医大教授)が先月28日、15歳未満の患者に限り、本人や親が拒否していても命の危険があると判断される場合、輸血を行うとする指針を発表した。今回の発表により、輸血拒否による小児死亡事件など、これまで問題視されていたエホバの証人の信条に対して、子どもの命を尊重する医学会からの「答え」が出されたと言える。
決定されたガイドラインでは、患者が15歳未満の場合、親権者双方が拒否する場合でも必要なら輸血を行い、病院側の決定に対して親権者による治療の妨げがあった場合は、子どもに対する「ネグレクト(養育放棄)行為」とみなし、親権者の職務停止処分の手続きを進めるとしている。一方、15歳以上18歳未満の場合は、親権者もしくは本人のどちらかの希望があれば輸血し、ともに拒否する場合、また18歳以上の場合は、本人の同意を得たうえで無輸血手術を行うか、転院を勧める。
今回、親権者の職務停止まで踏み込んだのは、過去に両親が「宗教的な理由」で手術を拒否したが、病院と児童相談所の要求によって裁判所が親権停止を認めたことが背景にあると見られる。
一方、緊急時に無断で輸血して救命したとして、エホバの証人信者の患者から訴えられた医師と病院が最高裁で敗訴するという事例があることなどから、義務教育を終えた15歳以上に対しては、宗教上の輸血拒否を患者の自己決定権として尊重している。ただ、18歳以上で成人に達していない患者に対しても、「医療に対する適切な判断が出来ない状態」と複数の医師が認めた場合、輸血を行うという。
06年9月に行われた日本小児麻酔学会第12会大会シンポジウムでは、約75%の病院が「親が子どもへの輸血を拒否しても、救命に必要なら輸血に踏み切る」という調査結果が発表されており、昨年6月には今回発表されたガイドラインの素案がまとめられていた。
エホバの証人被害者全国集会実行委の資料によれば、エホバの証人信者が輸血を必要とする治療例は全国で年間約1000件発生し、うち約1割が15歳未満であると推定されている。
今回のガイドラインの発表により、輸血拒否によって死亡する児童の被害が減少するとともに、現場で輸血治療を施す医療従事者の精神的負担が軽減されるとみられる。